『SWING UP!!』第12話-15
「まあ、プロの選手に逢えるかは分からんけどな」
「違いない」
自分たちは、“早朝野球”の時間帯に当たるから、ナイターを戦う選手たちがそんな早くに顔を出すとも、思えないのは事実だった。
(それにしても、だぞ)
その“宿舎”を使えるのは、交流試合の前日と当日だけだ。それよりも先に、関東のほうへ来てしまったらしい清子は、その間の身の振り方をどうするつもりなのだろうか。
岡崎は気になることを、そのまま清子に問いかけていた。
「荷物とか、どうしたんだ?」
「城央駅のコインロッカーに、預けとるよ」
「泊まるトコは?」
「ネカフェとか、スーパー銭湯とか」
「………」
やはり、無鉄砲だった。
「清子、お前な、考えなしが過ぎるぞ」
「まーちゃんの名前見つけてから、冷静じゃなかったんわ、認める」
「まったく。それじゃ、体調を崩してしまう」
岡崎は、せっかく選抜メンバーに選ばれたのに、万全の体調で臨めなくなったらどうするんだ、と、清子に説教を始めていた。
「なあ、まーちゃん」
「なんだ?」
「まーちゃん、いま、どうやって暮らしとるん?」
「? アパート住まいだが?」
「ひとりで?」
「うむ」
「ふーん」
清子が少し、考え込む。ややあって、いいことでも思いついたのか、豆電球のきらめきを、頭上に瞬かせた。
「それじゃ、ウチ、まーちゃんのトコに厄介になってもええ?」
「は?」
「ウチのこと、心配してくれるんなら、まーちゃんのとこ、泊めさして」
タダで、とは言わんよ、と、清子は片目をつぶりながら、言う。
「お、おまえな!」
岡崎はその仕草に、はっきりとした動悸と動揺を覚えた。
「年頃の娘が、男の一人暮らしのアパートに、上がり込むって、どういう了見や!」
語尾に関西圏のイントネーションをうつされつつ、胸中の動揺を隠すように、岡崎はまくしたてる。
「まーちゃんなら、なんもせえへんよね?」
「ま、まあ、なんもせえへんけど」
「なら、ええやん」
岡崎の剣幕を、煙に巻くようにして、清子は涼しげな顔つきであった。胸の中で、“それに、まーちゃんなら…”と、ひとりごちていたことは、敢えて触れておく。
「む、むむ……仕方ない」
結局は、清子に押し切られる形で、岡崎は彼女をアパートに泊めることにした。ネカフェやスーパー銭湯に、ひとりで清子を放り出すより、精神衛生上、その方が岡崎には安心も出来る。
後は、自分の“男”としての問題だが…。
(これも、平常心を養う鍛錬と考えよう)
無理やり、そう思い込ませて、乗り切る決意をするのだった。