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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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21 建国祭の準備-1


 力強く空を舞う飛竜の隊列が、真夏の太陽に照らされる市街地へ、巨大な影を滑らせていく。
 王都の治安を守る竜騎士達の勇姿は、ジェラッド王都の名物だ。これを目当てに訪れる観光客も多い。

 カティヤが日常を取り戻してから1ヶ月。
 五日後に建国祭を控えた王都には、各地から続々と観光客が訪れている。
 上空から見るメイン通りは人でひしめきあい、敷石がほとんど見えないほどだ。

『王都北、異常なし。まもなく帰還します』

 編隊の先頭でナハトを操り、カティヤは襟に付けた通信魔石を摘まんで、報告をする。
 通信魔法と違い、届くのは声だけだが、錬金術で開発された通信石は、とても便利だ。
 かける相手先をイメージするコツさえ掴めば、魔力の有無によらず誰でも使える。

『了解。祭りの山車がさっき到着してな。厩舎前においてあるから、着陸には注意しろよ』

 陽気なベルンの声に、カティヤも口元をほころばせる。
 毎年、錬金術師や鍛冶屋たちが競って工夫を凝らした山車で、建国祭のパレードが行われる。
 華やかなそれらを引くのは、綺麗に全身をペイントした飛竜たちだ。
 ナハトの山車を担当した女錬金術師は、寝不足でふらつきながら、今年こそ最高の出来だと興奮していた。
 もっとも、彼女は毎年そう言うのだが。

「ナハト、山車が来たそうだぞ」

 カティヤの声は自然と弾み、ナハトも嬉しそうな鳴き声で応える。
 カラフルな王城が近づき、はるか眼下にシートを被った山車が小さく見えた。

「楽しみだな。去年の山車も素晴らしかったし……」

 和やかな会話は、緊張を孕んだ声に切り裂かれた。

『王都南五十キロに、リザードマンの群れを発見!』

 北側を見回っていた、もう一人の副団長、ディーターの声が響く。

『カティヤ隊、すぐ行ってくれ!』
「了解。ナハト、南だ!」

 即座にベルンの指示が下ろされ、カティヤは手綱を操って進路を南に変える。
 後ろに続く竜騎士達もそれに習った。
 カティヤは片手で、薄紫をしたナハトの鱗を軽く撫で、なだめた。

「お楽しみはもう少し我慢だ。山車は逃げないぞ」


 速度を上げた飛竜たちは、ほどなく王都北端の上空に、宙空でホバリング姿勢を保っていた仲間達を発見した。
 ジェラッド王都もまた、外敵を防ぐために円形の城壁で囲んでいる。
 はるか下には南門があり、太い大陸行路が延々と続く。
 その両脇の広々とした大地を、野原や森、荒野や湿地帯を、自然の絵筆が彩っていた。
 塩の道と同じく、行路の両脇には烽火台が置かれ、そのいくつかには小さな集落がある。
 ぶつからないよう、ディーターの飛竜から十数メートル間隔をあけて、ナハトもホバリング姿勢を取った。

『カティヤ、悪かったな。リザードマン達は湿地帯の方角へ変えた。どこの集落も無事だ』

 風の強い上空では、基本的に騎手同士の会話は通信石だ。
 ディーターの困惑に満ちた声音が、魔法に乗って届く。

『ここいらじゃ見かけなかった大トカゲさん達が、お行儀よく遠足だ』

『またか。最近、やけに多いと思わないか?』

 カティヤの声にも困惑が混ざる。
 ここしばらく、同じような光景が何度も目撃されていた。

 隊列を成したリザードマン達が、集落や烽火台に目もくれず、湿地帯へ行進していく。
 毒虫や毒蛇が繁殖し、腐った汚泥の沼が点在する、不気味な場所だ。
 当然ながら住む人間はおらず、昔からリザードマンたちの住処になっていた。

『あの奥で、どんなデッカイ群れができてるか、考えたくも無いぜ』

 ディーターが肩をすくめ、部下たちも同感と頷く。

『手に負えなくなるまえに、討伐した方が良いんじゃないですか?』

 不安げに発言した部下を、カティヤはなだめた。

『気持ちは解るが、それは陛下のご決断する事だ』

 この数日間、何度か同じ意見が上がっていた。
 だが、うっそうとした密林で、飛竜は圧倒的に不利。リザードマンと湿地帯で戦うのは自殺行為だ。
 実質的な被害が出ていない今、味方の多大な損害を覚悟してまで、わざわざ火の粉を振りまく必要はなし、と国王の判断だ。

 しばらく眺めていたが、地上はのどかな風景のまま。
 ベルンに報告の通信を放ち、結局いつも通り、見張りを残して帰城する事になった。



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