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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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21 建国祭の準備-2


「――う〜ン、またリザードマンかぁ……」

 カティヤとベルンの報告を受け、小会議室の卓に肘をついたジェラッド国王・ユハが頭をひねった。
 現在、室内に三人だけなのをいいことに、しごく砕けた口調だ。

 ユハは濃い色の金髪と大きなくりくりした茶色の瞳をした可愛い男の子。
 首を動かすたび、せいぜい六歳児の頭には大きすぎる冠が、ずり落ちそうになる。
 母性本能溢れるお姉さまなら、思わず抱き締めてほお擦りしたくなる姿だろう。

 しかし、ユハの実年齢はベルンより上。

 しかも己の外見効果を熟知し、抱き締められた胸の谷間に顔を埋めニマニマしている、スケベおっさんだ。
 まぁ、それが余りにあけすけだし、自分からセクハラはしないので、カティヤも嫌悪しないのだが。

 幼い頃から神童として、学問や政治に並外れた才覚を発揮していたユハを、誰もが立派な青年に育つだろうと信じていた。
 しかし十代のある日、城の女錬金術師の実験室で、誤って薬品を頭から被ったユハは、子どもにまで若返り、そのまま身体の時を止めてしまった。
 不老不死とは少し違う。
 実験体に使われていた動物達は、どれも外見は子どものまま、平均寿命の範囲で命を終えた。
 現在に至るまで、治療の手立てはないが、後継者には甥がいるし、本人はあまり気にしていないようだ。もしくはそう振る舞っているのかもしれない。
 とにかく統治者しての辣腕は、外見の特異以上に有名だった。

「なんにしても、湿地帯にひっこんでる以上、手の出しようがないね。ただ、万一襲ってきた時の準備は万全にしておこうか」

「かしこまりました」

 ベルンが生真面目に答え、カティヤも一礼する。

「あー、ところで……カティヤは今年の建国際、どうする?」

 ユハ国王の唐突な質問に、意味を掴み損ねたカティヤは、目をしばたかせる。

「例年通り、ナハトに山車を引かせますが……?」

「いや、今年はアレシュ王子が来るでしょ?顔を合わせ辛いんじゃないかな?って。何だったら、取り損ねた休暇を取っても構わないよ」

 両手で頬杖をつき、ユハがニコニコと愛くるしい笑みを浮べる。
 建国祭にはもちろん、各国の貴賓客や大使も招待される。
 ストシェーダからは去年、国王夫妻が訪れ、その席でリディアは『飛竜の姫騎士』の御前試合を観戦したのだ。
 そして今年は、アレシュが来賓客として訪れる事になっていた。

 まったく皮肉なものだと、カティヤは思わずにいられない。
 自室の引き出し深くしまいこんである、あのペンダントが無くとも、建国祭で会う事になっていたのだ。

「お気遣い痛み入ります。ですが私は一介の騎士。とりたててアレシュ王子と言葉を交わす場もございませぬ」

 かなり無理をして、カティヤは返答した。
 黒と金の瞳をした魔眼王子を思い出すたび、胸が締め付けられる。
 時間が経てば薄れると思っていたのに、喪失感は深くなる一方だ。
 しかし、職務に私情を挟む気はないし、ここで避けたら、それこそ一生引き摺ってしまいそうだ。

「ふーん。じゃぁ、舞踏会もいつも通り?今年こそ、カティヤ・ドラバーグ公爵令嬢のドレス姿を見たいって人も、大勢いるんだけど」

 少し意地悪な顔で、ユハはニヤニヤ笑う。

 『飛竜の姫騎士』の俗称は、単に女竜騎士を表しての意味ではない。
 飛竜使いの里は、一応は独立地域であり、公国の形となっている。
 竜騎士として、ドレスや茶会には無縁の生活を送っているカティヤだが、身分としては公爵令嬢だ。
 建国祭の前夜には、貴賓客をもてなす舞踏会も開かれる。
 ドレスアップをし、貴賓客の列席に加わる事も可能だったが……。

「申し訳ございません。今年も王宮の警備に人手が足りませんので」

 これは少し、嘘だった。
 確かに騎士団は多忙になるが、カティヤが舞踏会に参加すると言えば、騎士団員達は最優先して叶えてくれるだろう。
 もっと直接的に、出たらどうだと勧められる事もしょっちゅうだ。
 しかし胸元の開いた正装のドレスを着て、色んな男性と手を取って踊るなど、考えただけで鳥肌が立つ。
 ダンスの申し込みを断るのは無作法だし、それなら最初から出ない方が角が立たない。
 だから毎年、王宮の警備を無理やり引き受けさせてもらっていた。
 ユハはカティヤの身に起きた事を知らないはずだ。
 単なる男嫌いと思っているのかもしれない。

「そっか、残念」と、あっさり引き下がってくれた。



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