教師・海老川優里-1
海老川優里の勤務する一ノ瀬小学校。道徳の時間中、最近西川彩愛を中心とした田口徹へのいじめについて、担任の優里が問題解決の為に教えを説いていた。
「みんなには、もっと人の痛みを知る人間になって欲しいの。もし自分がみんなから危害を与えて続けられたら嫌でしょ?悲しいでしょ?もし皆がパパやママになって自分の子供がみんなから虐められたりしたら悲しいでしょ?」
色々と話をする優里だが、西川彩愛は全然納得がいかないような態度を見せる。
「先生!虐められる方にも問題あると思います。見てると苛々してくるんです。そういう雰囲気を出してる方もいけないと思うし、嫌だったらもっと強くなって虐められないよう努力すべきだと思います。」
西川彩愛の言葉を聞いてドキッとした。
(小さい頃の私とまるっきり同じ意見じゃない…)
どちらかと言うと彩愛の気持ちの方が物凄く理解できる。自分もあの時、そう思いながら湯島武史に暴行を加えていた事を思い出す。
(だ、ダメ!私は教育者なんだから…)
そんな優里に彩愛が言う。
「じゃあ先生は今まで一回も誰かを虐めたりした事ないんですか!?」
またドキッとする優里。少し間を置いて答える。
「…ないわ?人を悲しませて自分の気持ちを晴らそうだなんて考えた事もないわ?悪い事をしたら必ずその罰が自分に跳ね返ってくるものよ?人を助ければいつか自分が困った時に助けてくれる人が出てくる、見ぬ振りすれば困った時に誰も助けてくれない。そう言うものよ?あなた達は来年もう中学生。大人としての自覚を持って生きていかなきゃダメ。分かった?」
「ハーイ」
生徒達の気のない返事を聞いた瞬間にチャイムが鳴った。溜め息をついて教室を後にする優里。聞き分けの良くない教え子への脱力と、自分の事を棚に上げた罪悪感に襲われ物凄く疲れた。
優里が出て行ったのを見計らい、彩愛は田口徹の机の前に立つ。
「田口のせいで嫌な思いしたじゃんよ…。帰り付き合いな。」
「う、うん…。」
学校が終わると西川彩愛を中心に井川真央と石黒ひとみに連行されるように校門を出て行った田口だった。