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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第11話-8

「相模クンは、もう二つのチーム相手に投げたんだよね」
 結花が、相模に問いかけた。ちなみに“天王山”の試合は、初回を終わって、0対0である。
「両方ともに、負けちまったけどな」
 櫻陽大学が、目の前で試合をしている、法泉印大学と仁仙大学に、それぞれ敗れていることは、リーグ戦績からでも明らかになっている。さすがに悔しそうな表情を浮かべる相模は、負けん気の強さがはっきりと表れていた。
「どっちが、強いと思った?」
 率直に、聞いてみたいことだった。航も結花に追従するように、相模を見遣りながら、静かに彼の答を待っている。
「うーんとな」
 やや考え込む時間を挟んで、相模は答を返した。
「チームの完成度ってので言えば、やっぱ仁仙大学のほうかな」
「そうなんだ」
「でも、“強い”とはっきり感じたのは、法泉印大学のほうさ」
「そうなのか」
 結花と航に対して、相模の言うところに寄れば…。
 仁仙大学は、目だって“穴”と言うべきところがない、オーソドックスにチームとして洗練された実力を持っている。敢えて言うなら、“絶対のエース”がいないということだが、三人のそれぞれタイプが違う投手による継投で、十分に補われている。
 かたや、法泉印大学は、“絶対のエース”である天狼院隼人の存在を始めとして、多士済々というべきか、ひとクセもふたクセもある選手の集まりだと言う。その分、ムラッ気があり、“穴”も多いと感じたが、底の知れない怖さが常に付きまとっていた。
 だから、相模が投手として対峙してみて、“手ごわさ”を感じたのは、“穴”が多いはずの法泉印大学だった、と、こういうわけである。
 事実、相模は、デビュー戦という緊張度を差し引いても、法泉印大学には3失点だったのに対して、仁仙大学は1失点に抑えている。
「まあ、仁仙のときは、4番の調子も、良くなかった感じだったからなぁ」
 目の前の試合で、4番打者の安原誠治が内野フライに倒れる瞬間を見ながら、相模は呟いていた。2回の表の仁仙大学は、0点に終わった。
「………」
「4番っていや、法泉印の方だな。あれ、すっげぇよ」
 2回の裏、法泉印大学は4番の打順から始まる。荒れ球の好投手・相模が、“すごい”と認めるその4番打者が、打席に入っていた。
「? もしかして、女の人か?」
 航が、背丈の低いその4番打者を観察している。おそらく、結花よりも小柄なのではないだろうか。男子の選手でその身長は、あまり考えられないから、女子選手だと思ったほうが、間違いはなさそうだ。
「木戸っち、当たり」
 相模が、航の考えに答を乗せた。
「ずいぶんと長いバットを使うのね。あの体で、振り切れるの?」
 打席に入っている女子選手……電光掲示板によれば、“梧城寺(ごじょうじ)”というその選手は、ひときわ目立つ、いわゆる“長尺バット”を手にしていた。その長さは、結花が愛読している、小◇館の野球漫画“あ○さん”に出てくるような、“物干し竿”を連想してしまうほどだ。
「まあ、見て、驚いてちょーだい」
 対戦したことのある相模は、その“長尺バット”に痛打された記憶を思い出したのか、軽い口調とは裏腹に、かなり渋い顔つきをしていた。

 ブンッ…!

「!」
 二球目に、その“梧城寺”という女子選手がスイングをした。空振りであったが、空気を切り裂く豪快なスイングの音が、こちらまで聞こえてきた。
「うわ、こわっ…」
 思わず、結花が唸るほどに。
「ちんちくりんなのに、豪快なスイングだろ?」
「身体の捻りがすごいな。“トルネード”みたいだ」
「お、うまいこと言うじゃんか。確かに、ありゃあ“トルネード”だな」
 かつてメジャーリーグを、体を目いっぱい捻る“トルネード投法”から繰り出される、豪快なストレートと鋭利なフォークボールで席巻し魅了した、日本人投手・野母を思い起こさせる。そんな、“梧城寺”という女子選手の“トルネード”スイングだった。
「あと、リストも強そうだ。あれだけの“長尺バット”で、スイングのヘッドが全然ブレていなかった」
「へえ。木戸っち、よく見てんな。……もしかして、惚れちゃったり?」
「!?」
 相模の軽口に、なぜか結花が過敏に反応していた。
「あれだけ小柄だから、ストライクゾーンも狭い。しかも、あの長尺バットは、外角のボール球でも、振り切れないどころか、ものによっては絶好球になる」
(あれー!? 木戸っち、スルーですかぁ!?)
 軽口を簡単にかわされて、相模が苦笑しながら脱力していた。
 正確なことを言えば、航は、打席に立つ“梧城寺”という女子選手に集中していたのであり、相模の軽口は耳に入っていなかった。…まあ、それを差して“スルー”と言えなくもない。
「………」
 一方、心中穏やかでなくなってきたのは、結花のほうだった。航が、打席内の女子選手に注ぐ視線が、とても“熱く”感じられたからだ。もちろんそれは、航に対して秘めた想いを抱く結花が、それ故に、過剰に意識しているだけなのだが…。
(あらー、なんか、面白いことになってない? この二人、付き合ってんのかと思ってたけど、そうでもないんかな?)
 結花と航の表情を見て、相模がそんなことを考えていた。試合を見るより、面白いものを見ている様子でもあった。


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