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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第11話-44

「………」
 無死一塁で、打席には3番の天狼院隼人。大和の投げる“スパイラル・ストライク”にも負けないスイングを持ち、長打力もある怖い打者だ。
「ストライク!」
 桜子は、それでも、内角低めのストレートを大和に要求した。ミリ単位にコントロールされた直球が、審判の腕を高く挙げさせる。
 左打席内の隼人に対して、外角高めになる“スパイラル・ストライク”を最大限の効果を持って決めるには、内角への球筋を意識させることが、絶対に必要だった。
 二球目は内角。だが、ストライクゾーンは半個分外す。
「ファウル!」
 相手は、手を出してきた。バットの根元にあたったボールは、ファウルチップとなり、後ろへ跳ねて転がっていく。
 形の上では追い込んだ。しかし、桜子は布石をもうひとつ、打ち込んでおくことにした。
 大和に出したサインは、コースは外角だが、“スパイラク・ストライク”ではない。そして、ストレートでもなかった。
「………」
 頷きで応えてから、大和が大きく振りかぶる。流れるような投球モーションから、鞭のようなしなりをもって右腕が振られ、その指先からボールが弾き出された。
「!?」
 大和の顔が、一瞬、強張ったように見えた。おそらく、リリースを誤ったのだろう。それを示すような、回転力の乏しい、いわゆる“棒球”がアウトコースの低めに投じられていた。
 隼人のスイングが始動した。ボールの球威はともかく、ストライクゾーンを掠めているのは間違いないから、彼はそれを叩きに来たのだ。
 隼人はこの打席でも、“スパイラル・ストライク”を警戒して、グリップを余して握っている。それが、バッテリーにとっては、“最悪の事態”を避ける結果にはなった。

 キィン!

「!」
 弾道の低い打球が、三塁線を襲う。
「くっ!」
 吉川が必死に食らいつこうとするが、そのグラブをわずかに掠めて、ボールはそのままライン際を切れながら転々としていった。
「フェア!」
 長打コースである。打球が挙がらなかったため、グラウンド内を駆けるボールとなったが、大和の“失投”を思えば、それは御の字といえるものでもあった。本塁打を打たれても、おかしくないものだったからだ。
 だが、走者を一塁に置いての長打であるのは間違いない。ようやく打球に追いついた浦が、中継に入っている岡崎を経由して、ホームで構える桜子にバックホームを試みたが、能面とは違って、長身ながらも足がそれなりに速い東尋は、桜子のミットにボールが届いた瞬間には、スライディングでホームベースを駆け抜けていた。
「ホームイン!」
 どっ、と法泉印大学のベンチが沸いた。1点を勝ち越す、3番・隼人の適時二塁打が生まれたからだ。
「タイム!」
 1点を奪われ、無死二塁の状況である。隼人への失投も含めて、間を取るために桜子はマウンドに向かって、足を運ぶことにした。
「危なかった」
 マウンドに着くや、開口一番、大和がそう言った。今しがた二塁打を打たれた、“失投”のことを言っているのだろう。
「バットを長く持っていたなら、スタンドインも有り得たかもしれない」
「大和、ごめんね」
 桜子は、“スパイラル・ストライク”の直前に失投をさせてしまった、自分のリードを悔やんでいた。
「桜子が、謝る事はないよ。ミスったのは、僕の方なんだから」
 滑った指先を、大和は擦る。1点を奪われたが、彼の表情にはそれほどの悲壮感はなかった。
「でも、今の感触は、悪くなかった」
「え?」
「あの滑って抜けていく感じ……多分、これだと思う」
「………」
「桜子、お願いがあるんだ」
 大和がグラブで口元を隠しながら囁いてきた決意…。
「わかったよ、大和」
 それを桜子は、はっきりとした意思を示して、受け止めていた。


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