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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第11話-45

 所定の時間が終わり、桜子は低位置に戻る。そして、ミットを構えると、大和に対するサインを…出さなかった。
 大和は二塁走者の隼人に視線で牽制を送りながら、セットポジションからの第一球目を、クイックモーションから投じた。
「!?」
 コースは外角。響の大きなスイングが、そのボールを捉えようと、唸りを上げて襲い掛かる。

 ガツッ…

「えっ」
 響の驚きを含んだ声は、捕らえたと思ったボールが、当たり鈍く、ファウルゾーンに転がっているのを見たからだった。響の中では、好球が来たと思って、気合一発鋭い打球が飛ぶものと考えていたのかもしれない。
「………」
 二球目。桜子はやはり、サインを出さない。それを当然のごとく受け止めながら、大和が今度は、内角にボールを繰り出してきた。

 グンッ…

「!」
 ストレートかと思ったボールが、僅かにスライドする。そして、鋭いスイングを放ってきた響のバットをあざ笑うかのように、ストン、とボールが急激に失速して落ちた。

 ガッ…

 と、地面にワンバウンドのボールが跳ねる。桜子は機敏にミットを動かして、それをしっかりと捕まえた。
「ストライク!!」
 響のスイングは、見事なまでに空振っていた。途中まで、間違いなくストレートとしてタイミングを合わせていたし、投球モーションも変化はなかった。
 それなのに、ボールが変化した。一瞬スライドして、しかも、ブレーキがかかって沈んでいったボールは、これまで見たことのない球筋だった。
(あの、ワンバウンドしていた球?)
 響の思考である。思い出したように、各打者に1球ずつ、ワンバウンドする球があったのだが、まさかそれが、この変化球への布石だったというのだろうか。
「………」
 桜子は、ミットを力強く構えた。今彼女が考えているのは、大和が投げるボールを、絶対に後ろに逸らさないことだけだ。
 大和が投じた三球目。
「!」
 外角に向かってきたそれは、間違いなくストレートの球筋だ。響のスイングも、それにタイミングをあわせて追いかけている。
 グ、とそのストレートが不意にスライドした。そして、まるで壁にでも当たったかのような勢いで一気に失速し、地面に跳ねてワンバウンドになった。
 桜子は、それに対しても身体を機敏に反応させ、ミットに収まりはしなかったものの、身体に当ててボールを前へ弾いた。そしてすぐさま、素手でそのボールをつかみ、響の身体に軽くタッチをした。
「ストライク!!! バッターアウト!!」
 空振りをしたあと、ワンバウンドしたのであるから、ボールで響にタッチをするか、一塁に送球をしなければ、“振り逃げ”の判定を受けてしまうからだ。だから、桜子が響にタッチをした瞬間、“三振アウト”の認定が下され、アウトカウントが正式にひとつ記録された。
「今の、ボールは……?」
 唖然とした様子で、響が打席から離れていく。入れ替わりに打席に入った5番・能面は、三球三振に倒れた4番の様子が気にかかったのか、集中力を欠いているようにも見えた。
「ストライク!!! バッターアウト!!」
 能面には、例の“スライドして沈む球”を1球だけ見せて、追い込んでからの“スパイラル・ストライク”で空振り三振に打ち取った。完全にタイミングが合っていなかったのは、ブレーキング・ボールを挟んだ緩急に、嵌っていたからだろう。
「ストライク!!! バッターアウト!!! チェンジ!」
 6番の仙石も、“スライドして沈む球”と“スパイラル・ストライク”を織り交ぜた緩急で、三球三振に仕留めた。二塁走者の隼人を、その場に釘付けにしたまま、大和は危機を乗り切ったのである。
「よし!」
 マウンド上で力強く拳を握り締める大和。それは、新しい球種となる、“カット・ボール”のリリースの感触を、完全に体得した自信が成さしめるものであた。


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