夏の1日と彼の優しさ?-20
「ま、守ってくれたよ…?手まで怪我してるのに」
「あー…いや、これは、その…」
「隠さなくていいから。喧嘩までして」
「…格好悪いな、オレ」
そう言って自嘲気味に笑った猛に、美咲はかける言葉が見つからなかった。自分のために手を怪我してまで守ろうとしてくれた猛に、美咲の心は揺れていた。
「…何で?何でそこまで?私達はただのクラスメイトなのに、下鷺君は2度も助けてくれたんだよ?それだけでも私は十分なのに」
「まあ、それはそうなんだけど…オレとしては不満足というか」
「そういえば、私を医務室まで運んでくれたのって下鷺君?」
不意に美咲が訊ねた問いに、猛は頷きかけたその視界に美咲の唇が目に入って硬直した。人命救助のためとはいえ、意識のない美咲の唇を勝手に奪ったことには変わりない。それを思い出して猛はギギギと顔を逸らし美咲の頬から手を離した。そんな猛の様子に、美咲は首を傾げる。
「下鷺君?」
「あー…えっと…」
「…私を運んでくれたんじゃないの?」
「そ、それはそうなんだけど…」
言わなければ、きっと美咲は気づくことなく忘れる。もしくは、春香や棗達から話を聞くかもしれない。だけど猛はそれを考えて胸の中に何かが渦巻くのを感じた。あれはただの処置、それは説明すれば美咲もきっと分かってくれるはずだけどそれで納得されるとそれはそれで複雑な気持ちになる。