偽りの王T-1
「手頃な町にでも降りて宿を探すか」
ゆっくり下降していく中、葵は思いついたようにゼンを見上げた。
「あの、ゼン様・・・」
「ん、どうした?」
ゼンの葵を見る目はとても優しい。慈しみを込めて触れるその指先からも深い愛を感じる。
「最近知り合った秀悠さんという方なら・・・きっと」
「男みたいな名前だな・・・」
「はいっ、医療を志している立派な青年です」
にこやかに答えた葵の様子に小さく唸ったゼンは、とりあえず言われた通りにその町を目指した。
上空からみた秀悠のいる町は、栄えているとは言えないものの行き交う人々の笑顔は輝き、明るい声が響いていた。
目元をゆるませ微笑む葵は、その中に秀悠の姿を探していた。
町の外れに舞い降りた二人の王は翼を消して町中へと足を踏み入れた。
「秀悠さんの家はたしか・・・」
いくつかの角を曲がり、見慣れた路地をゆくと・・・
「見つけたっ」
ゼンを手招きして葵が小さな家の扉をノックした。
―――・・・コンコン
「はい、どちらさまで・・・―――」
出てきた青年は葵の姿を確認すると目を丸くして声をあげた。
「・・・っ!!葵さん!!」
と、満面の笑みを向けた秀悠は・・・葵の背後から顔を出したゼンの姿を見て萎縮した。
「・・・あなたも神官の一人ですか?」
視線をそらすように秀悠が言葉を発した。
「いいえ、ゼン様は神官ではありません」
「え?・・・ゼン様?」
その名を聞いて顔をあげた秀悠は、ゼンの顔をまじまじと見つめた。
「あんたが秀悠か、俺はゼンだ。よろしくな」
気さくに手を差し伸べたゼンに戸惑いながらも秀悠は手を差し出した。すると、触れ合った手のひらからゼンの力が流れ込んでくる。
「・・・っ!
ゼンさんあなたは一体・・・」
一歩後ずさる秀悠へ微笑みを向けた葵は、
「秀悠、この方は雷帝ゼン様です」
そう言われてまじまじと彼を見つめると、目の見えない圧倒的なオーラのようなものがゼンを包み、その精悍な顔は人間離れした美しさを秘めていた。