妙な転校生が来た?-11
「…そんなに食べるの?」
「んぐ?――ああ、これくらい食わないと腹減るんだよ」
食べかけていたものを一度飲み込み、猛は平然とそう言い切った。それを聞いて美咲は思わず軽く目を見開いてしまう。あの細そうな体のどこに、これだけの量が入っていくのだろうか。
「というか、今日は学校来る前に少し食ってきたからいつもよりは少なめかもしんない」
「はあ?!ちょっと待って、これで少なめ?というかそれは朝ご飯じゃないの?」
「いんや?朝ご飯のあとに、小腹空いたから」
「……?」
美咲の言葉を否定する猛に、美咲は思わず首を傾げた。何だろう、何かおかしい。いや、これだけの量を一度で食べるのもおかしいけど。そう思っていると猛が朝からのメニューを言い出したことで何かが納得した。
「まず朝はヤマザキの食パン一袋だろ、あと目玉焼きにウィンナー5本。それと目玉焼きご飯もお代わり3杯食ったっけ?けど今日から転入だってことを考えてたら緊張で小腹減ってきたから、確か…そうだ、ハンバーグと味噌汁おかずにご飯2杯食ってきた」
食の話は普段よくするのか、それともその緊張がなくなったのかさっきまでとは違い饒舌に答えてくれる猛に美咲は開いた口が塞がらない心境だった。別に美咲もそこまで小食ではない、むしろ同性代の女の中では食べる方だが猛とは次元が違う。このおかしいまでの食欲が今の彼の身長と体格を支えているのだとすれば納得だが、その量を食べてそこまで太くないというのは理解しがたい。
「…よく、食べるね」
「ああ、よく言われる」
「でしょうね」
「オレからすれば、よくそんなもんで腹膨れるなとは思うけど」
「多分、一緒にしちゃいけないと思う」
そうだ、彼のこの食欲と自分は一緒ではない。それを再認識した美咲は止めていた端をようやく動かし始めた。
そんなことがあって、二人は少し話したり、無言だったりを繰り返しながら一緒の時間を過ごしていた。
昼休み終了の鐘が鳴って、二人が一緒に教室に帰ったことであらぬ誤解が生まれそうになったこと以外、その後の猛の転入初日は無事終幕を迎えた。