蜘蛛の巣-1
「ん…優…ダメッ…」
「シたい癖に…」
優の手は容赦なく私の胸を揉みしだく。
「ダメってば…っぁ…」
私はなるべく小さな声で優に抵抗する。
「兄貴ィーっ!!!」
バタン!!―
「あれ?百合ちん?何やってんの?」
間一髪。優をベットから押し落とした私は突然ドアを開けた義弟の泰に笑顔を向ける。
「さぁ。」
「痛ぇ…」
頭から滑り落ちた優は首の付け根を押さえながら起き上がった。
「何やってんだよ?どーせ兄貴が百合ちんに手出そうとして飛ばされたんだろ?このエロ眼鏡。」
ハハ…。泰は何も知らないんだけどズバリ的中している。
「…つか何の用だ?」
優は優で欲求不満丸出しで泰を睨んでいる。
「あ、俺今から塾だからさ、『牡丹とソナタ』録画しといてよ。」
牡丹とソナタ、今話題の日曜お昼のメロドラマ。泰は中三の癖にかなり女々しい部分がある。
「はぁ?お前その為だけに来たのか!?」
「他に何があるんだよ?じゃな、頼んだぜ。いってきまーす」
ひらひらと手を振って出ていった。
「だから嫌って言ったの。鷹だったら完璧バレてたからね。」
優に釘を指す。
「もう今は誰もいないよン」
黒い含み笑いで私を見る。
「嫌よ。反省してよね」
ベットから降りてドアを開ける。
「じゃあね。優お兄サマ」
優の含み笑いを真似して優の部屋を出た。
私の家は再婚カップル、連れ子義兄弟(籍は入ってないから形だけ)である。彼此2年くらい一緒に家族として暮らしている。さっきの「エロ眼鏡」こと優が長男で、あれでも某有名医大に通っている。泰は三男、二個下だけど女の子みたいにかわいい顔してドラマ好き。私立の男子中だからゲイにモテモテって聞いたこともある。
そんでもって次男鷹、私とタメの高二。無駄口嫌いで一番とっつき悪かった奴。そして私、百合葉が長女。ちなみに、私と優はただのヤリ友関係でもある。お互い他人だし最初の頃の悪ノリでそうなっちゃったんだけど…最近の優は度を越してる気がする。
「ただ今…」
自室に入ろうとした時、玄関から鷹の声がした。
そういえば、確かこの前のバレンタインに告ってきた菜々美ちゃんとデートって噂を聞いてたっけ。ちょっとからかってやるつもりで階段近くの鷹の部屋の前に待ち伏せた。
「はぁい。色男」
入り口を塞いで満面の笑顔で迎えてやる。
「…は?」
かなり怪訝そうな顔で私を睨み付ける。
「怒んないでよね。デート失敗しちゃったの?」
「お前何言ってんの?」
「あれ?噂の菜々美ちゃんとデートじゃなかった?」
「あぁ…」
鷹はバツが悪そうに口元に手を当てた。
「何だやっぱりそうなんじゃない。とぼけちゃって」
「いや、あれデマ。お前まで知ってるっつーことはかなり流れてるな」
落胆したように頭をもたげる。
「なんだぁデマなの?面白くなぁ〜い。じゃ、告られてないんだ?」
「いや、そこはマジだけど。」
その一言で私の失いかけた興味が色を取り戻す。
「えっ?これは事実?ってことは…あんた菜々美ちゃん振ったの?」
「…そうだよ」
鷹がボソっと呟いた。
「意外〜。アンタああゆうのがタイプなんだと思ってた」
私がそう言うといきなりガバっと鷹が顔をあげた。
「な…何?びっくりした。」
「いや…別に、っお前はどうなんだよ。」
「何が?」
「だから…、バレンタイン」
鷹が頭を押さえながらそっけなく言う。
「あぁ…私そうゆうの頼まれないとあげない質だし、だから今年は優にしかあげてないよ」
「えっ?」
鷹の顔が一瞬強ばったように見えた。
「え?なぁに?鷹も欲しかったの?フフ、それなら言え…!?」
いきなり体が傾いて、腕を強く握り締められたまま鷹の部屋に押し込まれた。
「ちょっ…むっ…んんっ」
入るなり強引にドアに押しつけてキスし、激しく舌を入れこんでくる。
「やっ…はぁ…むぐ…」
嘘でしょう?冗談でしょう?信じられない。
「はぁ…どうして優兄なんだよ?」
「…えぇ?」
頭の中は混乱したままで目の前にある鷹の顔を見つめる。持ち上げられた私の両手首を諫める力が強くなる。
「痛っ…」
「アイツには、やらない」
「ちょっ…」
さっきよりも強い力で引っ張られて、ベットに投げ飛ばされた。私の体が鷹の羽根布団に沈む。そしてその上から鷹が覆い被さる。
「アイツにはやらない」
私の体を力強く抑えつけてじっと目を覗き込みながら言った。
「んっ…ふっ…」
もう一度激しいキスで攻められる。鷹の舌が私の口を掻き回して、息が覚束ない。このままヤっちゃうのはまずい。優は隣の部屋に居るはずだから。
「っ…まっ、…て優は隣に居るのよ?」
とにかく落ち着いてもらいたくて言った一言が、逆鱗に触れた。