20 骨製の海底城 *性描写-4
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慣れた廊下を進み、分かれ道までくると、ミスカはひょいと違う方向に足を向けた。
「ミスカ?」
「じゃあな、俺は部屋に戻るから」
そのまま振り向きもせず、深緑に銀糸刺繍の幅広袖を振り、あっさり去っていく。
別に、付いてきて欲しかったわけでもないが、なんとなく拍子抜けした気分だった。
長い廊下には、似たような扉がいくつも並んでいたが、エリアスは迷わずその一つをノックする。
すぐ返事が聞こえ、水竜の牙で造られた取っ手を押し開けた。
「ツァイロン主さま、失礼いたします」
室内にはいくつかの簡素な医療寝台が置かれ、壁際に薬品棚が並んでいる。
前髪まで長い黒髪を後ろで一つに束ねた壮年の男に、エリアスは両膝をついて前で手を組む大陸東風の敬礼をする。
エリアスたち『作品』にとって、この城の魔法使い全てが『主さま』だが、目の前の男ツァイロンは、エリアスの作り主だった。
二百年ほど前に才能を見込まれ、主たちの仲間入りをしたツァイロンは、今はもう存在しない大陸東の小国出らしい。
故国に未練はないようだが、衣服や料理は今でもそちらの好みが強く、お気に入り作品のミスカにも、自分が選んだ服を与えている。
「始めるぞ、脱いで寝ろ」
素っ気無く促され、エリアスは裸になって寝台へ横たわる。
一通り異常がないか調べた後、女体へ変化した。
「ふむ、異常なさそうだな」
張り出した柔らかな胸から手を離し、ツァイロンが手元のカルテに記入する。
大抵の男ならむしゃぶりつかずにいられない媚体に、顔色一つ変えない。
最後に机に置いてあった小さな陶器の壺を取り上げ、慎重に蓋を開ける。
ホタルのような光が中から飛び出し、エリアスの胸に吸い込まれた。
「安心しろ。命のかけらがこれだけ元気なら、もう数十年は持つ」
持ち主が弱っていれば、光りは弱々しい動きになるそうだ。
ツァイロンは頷き、低く呪文を唱えた。
エリアスから光が飛び出し、再び壺に吸い込まれた。
あの光りが自分の命の半分だと、エリアスは今一つ実感が沸かない。
あってもなくても、何もかわらないからだ。
しかし、刃向かったり逃げ出そうとした作品達が、命のかけらを握り潰され即死するさまを何度も見た。
「そのまま服は着ず、待っていろ」
エリアスは大人しく身を起し、寝台に座る。
室内は適温に保たれているが、こうして全裸のまま女体で座っていると、昔に戻った気がして、小さく身震いした。
ツァイロンは壺を持って部屋から出ていったが、ほどなく空手で帰ってきた。
壺の保管所には、主たちしか入れない。
反対側の寝台に腰掛け、気楽な調子で命じた。
「ついでだ、久しぶりに楽しませてくれ」
「かしこまりました」
寝台から降り、ツァイロンの足元へ従順に跪く。
朱色の絹服を捲くり、下着からまだ熱を持っていない男根を取り出して、舌を這わせていく。
「そういえば、先日手に入れた薬師の知識は、なかなか面白い。何かと応用が効きそうだ」
指の合間でエリアスの髪をサラサラもてあそび、ツァイロンが呟く。
「昔、お前が魔力増幅を強請った時は、正直に言うと厄介な失敗作だと思ったが」
骨ばった手がゆっくり頭をなで、神経質そうな口元が僅かな笑みに吊り上がった。
「先は必ずしもわからないものだな。お前を作ったのは成功だった」
一瞬、奉仕の最中なのも忘れ、エリアスは口を離して茫然とツァイロンを見上げた。
何かがゾクリと背骨を這い上がる。
だがその感覚は、続いて降りかかったセリフに霧散した。
「お前を褒美に与えてやれば、ミスカも扱いやすくなるしな。今日もこんな褒美を願うとは思わなかった」
「……え?」
「心配だから、お前の定期健診を早めてくれだと。まぁ、お前のようなケースは珍しいからな」
そして、かすかに眉をしかめた。
「おい」
「っ!申し訳ございません」
急いで硬くなった肉棒を口に含み直し、唾液が十分行き渡ったところで、胸の谷間に挟み込む。
柔らかな胸脂肪でしごきあげながら、先端を吸いあげる。
表情一つ変えず、冷や汗が背中を伝っていくのを感じないよう、ひたすら快楽を与える仕事に従事する。
乳房の合間で男が熱量を増しビクビク震え始めた頃、次の命令が下された。
「もういい、乗れ」
乾いた秘所に潤滑油を塗り、仰向けになった男の性器を押し当てた。
「っ、ぅ……」
体重をかけて硬い異物を無理に挿入し、奥底までくわえ込む。
どうすれば相手により快楽を与えられるか、最初から刷り込まれている。
エリアスの快楽は必要ない。
快楽に溺れず奉仕に集中できるようにと、感度を極力押さえこまれている。
異物感と押し広げられる苦痛に耐えながら、ひたすら腰を動かし、主へ快楽の奉仕を続けた。
何度か吐き出された精液を子宮口で全て吸い取り、ようやく萎えた肉棒を引き抜く。
ツァイロンが身支度を整えるのを手伝って見送り、即座にシャワー室へ直行した。