幻影-1
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「シウ、気分はどう?」
静かに落ちてきた声にさえピクンと肩が跳ねる。
ふるふると力なく首を振り、シウは座り込んだベッドの上でシーツを握り締めた。
直ぐ目の前にはもう慣れた気配と、窺うような視線を感じる。
「ちゃんと伝えてくれないと分からないよ」
「・・・んっ、耳、近くで話すな・・・っ」
少し顔を寄せただけで身を竦める彼女は明らかに頬を紅潮させ、息も変則になってきている。
「昨日よりは薄めて調合してみたんだけど。苦しくはない?」
「大丈夫・・・あの、アズール・・・?」
「なに?」
「今日は、・・縛んないの?」
「縛ってほしいの?シウがそうしたいならするけど」
「・・っ違う!あっ暴れてもしらないからなっ」
弾けたように睨んでくるあどけない表情には、彼を映す潤んだ瞳が揺れている。
アズールはくすりと笑みを吐き出してシウの髪を掬う。
「これでも俺は男だからね。いくらでも暴れてくれて構わないよ?」
至極穏やかに言ったつもりだったが、シウはフイっと顔を背けてしまう。
彼に訊ねたいことは山ほどあったが、考えるだけでどれも口を突いては出てこない。
自分の身に何が起きたのか。昨日、あれからアズールがシウの元を訪れることはなかった。
「シウ?」
「昨日・・・・」
息を飲む。
「えっと、・・・・あ、アズールの友達、来たよ。夜・・・知ってる?」
訊ねたいこととは明後日なことを口走ってしまい、シウはまた首を振る。
しかし、シウの意に反してアズールの表情はみるみるうちに色をなくしていった。