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溺れる爪痕
【ファンタジー 官能小説】

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幻影-4

 噛み付かれた唇がジンと熱を孕み、抉じ開けられた歯の隙間にぬるりとした触感が侵入した。

自由になるはずの手足はいくらもがいてもシーツを波立たせるだけで、圧迫された身体がそこからすり抜けることはない。

細いと視覚では捉えている腕はやはりびくとも動かず、シウは口の端から零れる酸素を必死で追い求めた。

口内を荒らす舌は自分のそれを巻き込んで歯列をなぞり上顎を擽る。

ぞくりと寒気にも似た感覚が背筋を駆け巡り、腕を掴む指先に力を込めた。

ぎゅう、とたわむシャツに意識を落としアズールは震える舌を絡め取る。

彼女の持つ毒牙に脳が痺れてきていると感じながら、左手をするりと滑らかな腿に伝わせた。

口腔内に彼女の悲鳴が注がれる。

ノアの顔が鮮明に過ったとき、膓から脳味噌までが一瞬にしてカッと煮えたった気がした。

昨日のシウへの行き過ぎた悪戯、イルの存在、ノアから受ける異常なまでの執着。

いつのときも彼を苛み、どれもが鬱陶しくてならない。

それでも、今、アズールを駆り立てているものは、織り混ざる全く別の感情であった。

シウをイルの二の舞にしたくないという思いも確かにある。

「っや、ああっ」

甲高い悲鳴とは裏腹にアズールの思考はここにはない闇に埋め尽くされていく。


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