幻影-2
無表情、というより冷たく見下ろすような彼の瞳。
シウは謂れのない不安のみを感じ取る。
「・・・・アズール?」
「そいつ、名を名乗った?」
「え、ううん、友達とだけ。綺麗なの男の人だったけど・・・・っ!」
言い終わるや否や、強く突き飛ばされてスプリングに吸収された身体がベッドに弾む。
「何をした?」
「え?あ、アズール?」
「何をしたっ!」
キン、と鼓膜に痛みを感じて思いがけずシウはきつく目を瞑る。
「シウ!」
「なっ、何もしてない!ただ話しただけだっ!すぐ帰ったし、なんなんだよ、お前・・・・っ」
大きくかぶりを振った彼女の上に、アズールの黒い影が跨がる。
彼女が何を口にしようと無駄だった。そんなことは彼自身が一番よく理解している。
信じられないのは、俺の心に余裕がないからだ。
シウを闇雲に疑っているわけではない。ただ、自分の心は他人を信じないように出来ている。
思い馳せて突き当たるのは自虐染みた自嘲のみ。
その表情を自分へ宛てられたものだと思ったシウは、内臓に冷たい空気を送り込まれたように動けなくなった。
怖い。
それは彼女がアズールに対して初めて、本気で抱いた感情だった。