穏やかな休日-1
「っちゅうわけやねん。」話し終わったケネスは、少し赤くなってコーヒーカップを手に取った。
「ほう・・・・。」ケンジが言葉少なにうなずいた。
「甘酸っぱい体験、というにはちょっと強烈な・・・・・。」ミカも言った。
「そ、それで、『ウォールナッツ』の兄妹とは、その後・・・・」マユミが言った。
「いきなり店、たたんでしもてな、一家で引っ越してしもうた。」
「え?」
「なんでまた・・・。」
「わいのせいやあれへんで、店舗拡張やって親父言うてた。聞けばバンクーバーに移ったらしいわ。」
「じゃあ、二人とはそれっきり?」ミカが訊いた。
「それっきりや。所詮恋愛感情抜きの身体の関係やったからな。わいも別に悲しいとは思えへんかったし、二人からもそれから何の連絡もなかった。まあ、ちょっとは寂しい気はしたけどな。」ケネスがカップを口に持っていった。
「ふうん・・・。」ケンジもコーヒーカップを口に持っていった。
「あんまりおもろい話やなかったやろ?」
「でもさ、あんた女からも男からも好かれるヤツだったんだね。」
「ありがたいこっちゃな。」
「それから何人かとつき合ったこと、あるの?カナダで。」マユミが訊いた。
「いや、女友達止まりやったな。身体の関係になった相手はおれへん。そのまま日本に定住して、そっから先は知っての通りや。」
「なるほど。じゃあ、男としては俺が二人目ってことなんだな。」
「そういうことやな。わい、こう見えてもあんまり遊んでへんねんで。真面目やろ?」
「ところで、あんたら、いったいどこまでいってんの?」ミカがケンジとケネスを交互に見た。
「そ、そんなにしょっちゅうやってないぞ、俺たち。」ケンジが慌てて言った。
「男同士のセックスって、けっこうハードなんでしょ?」マユミが訊いた。
「マーユ、よく聞くんやで、あのな、わいとケンジは極めてソフトや。わいがミカ姉抱く時と比べても全然。」
「そ、そうだぞ。キスして、抱き合って、刺激して、フィニッシュは外に出す。それだけだ。」
「そやそや。けっこうきれいやで、汚いことや痛いことはせえへん。わいもケンジもそういうのは苦手やからな。自分で言うのもなんやけど。」
「バックに挿入なんかしないの?」
「まだやったこと、あれへんな。一度も。」
「やってみたいと思わないの?」
「どないやろなー、雰囲気次第っちゅうとこかな。ケンジはどうやねん。」
「俺?そうだなー、別にそこまでしなくても、ケニーと抱き合ってれば、なんか気持ちいいし。」
「それで満足するのか?あんたら。」
「だから、そんなにしょっちゅうやってるわけじゃないってば。それにムラムラきたら、俺、真っ先にミカにアタックするから。ケニーとは気晴らしだよ。ちょっとした変化を求めて。」
「そやそや。釣りやゴルフみたいなもんや。レクレーションちゅうかな。」
「真剣に求めたくなったらミカしかいないよ。」
「嬉しい。ケンジ。」
「わいも、わいもやで、ハニー。」ケネスが慌てて言った。「キホンはマーユや。マーユさえ抱ければ、わいは十分癒されるんやからな。」
「ケニーはさ、そのジェニファーからスタートして、結局何人の女の子を相手にしたの?」マユミが訊いた。
「10歳でカナダに行って、ジェニファーとあんなことになった後は、17で日本に来るまで一人エッチ専門やったな。」ケネスは笑った。「こっちに来てからは、えーと・・・。」
ケンジが言った。「数に入れられるかどうかわからないけど、アヤカとやったよな、おまえ。こっちに越してきてすぐ。」
「おお、そうやったな。そやけど、あれはカウントできへん。一人エッチの一種やな。っちゅうか、ほぼ逆レイプ。」
「逆レイプ?」ミカが言った。
「そうや。わい、積極的にあの子の身体に触ったりせえへんかったもん。キスも一度アヤカに奪われただけやったし。ま、狂犬に咬まれたようなもんやな。」
「それにしちゃ、よく覚えてるじゃない。」ミカがにやにやしながら言った。
「当たり前や。なんもせんと寝てるだけで、イかされた経験はあの時だけや。男としては超情けないセックスやろ?」
「ケン兄も、そうだったんだよね。」
「ああ。あの拘束セックスのことを思い出す度、俺の頭にはおまえへの申し訳なさが甦る。けっこう痛い思い出だよ。」
「今、同じコトされたら、ケンジ、どう?」
「今?」
「そう。」
「相手次第、ってとこだな。」
「誰からならされてもいい?」
「な、何だよ、そんな具体的に・・・。」
「あたし、今度してあげるよ。ベッドにあなたを縛り付けて逆レイプ。」ミカが目を輝かせて言った。
「え?あたし見たい、それ。」マユミも楽しそうに言った。
「わいも。」
「よし。じゃあいつかやるぞ、ケンジ。」
「マジかよー。」
四人は笑い合った。