穏やかな休日-3
ミカは汗だくになっていた。上になった彼は、同じように身体中に汗を光らせ、はあはあと肩で息をしながら、ふっと微笑み、ミカの眼を見つめた。
「ミカ、ごめん。初めてだったんだろ?」
「うん・・・・。」
「痛かっただろ?ごめんな。」
「大丈夫。先輩、ありがとう。次はたぶん、大丈夫。」
彼は寂しそうな表情でミカの髪を撫でた。「俺、もうおまえとは会えない。」
「え?!」
「これきりにしよう、ミカ。」
「ど、どうして?先輩、なんでいきなりそんなこと言うの?」
「おまえがみんなから嫌がらせをされているのを見るのはつらい。」
「そんなこと、あたし気にしない。気にしてないから。あたしのこと、嫌いになったの?」
「とんでもない。好きだ。前よりも今の方がずっと。」
「だったら、どうして?」
「俺、留学するんだ。」
「え?」
「卒業を待たずに、来月シドニーに発つ。3年は帰って来ない。」
「そ、そんな・・・・。」ミカの目から涙が頬を伝って流れた。
「俺のこと、好きになってくれてたのか?」
「好き。好きです先輩!ずっと、ずっとこうして繋がっていたい。あたしも、あたしもいっしょに連れてって!」
「ありがとう。うれしいよ。」
「先輩、ああ、先輩、待つ。あたし待つから。」
「ミカ、おまえの気持ちを束縛したくない。3年で、心も変わる。だから俺のことは・・・・忘れてくれ・・・・・。ごめん、俺の方からつき合ってくれって言い出したのに・・・・・。」彼の目からも涙が溢れ、ミカの桜色に上気した乳房にぽたぽたと落ちた。
「悲しいな・・・。悲しすぎる・・・。」ケンジが目頭を押さえた。
「先輩はね、告白してからきっとあたしをずっと抱きたかったんだと思う。でも、留学が決まって、時間が迫ってきて、やっと巡ってきた好機がその夜だったわけ。」
「なんだか、とっても切ないね。」マユミが言った。
「あたしにも先輩にもそれはとってもつらい時間だった。でも先輩、あたしとの交際の証拠を残したかったんだと思うよ。本気で好きだった証拠をね。」
「好きだった証拠・・・か。」マユミがつぶやいた。
「その後彼はシドニーでできた友だちの一人と結婚して永住したらしい。ま、あたしの淡い初恋ってとこかな。」
「そんな初恋の後じゃ、なかなか好きな人は現れなかったんじゃない?ミカ姉さん。」マユミが言った。
「そうだねえ、確かに、しばらくは落ち込んでたね。で、ついに高校卒業するまで恋愛とは無縁の部活三昧だったってわけよ。つき合ったヤツは数人いたけどね。」
「なんやの、それ。恋愛とは無縁で、つき合ったヤツが数人?どういうこっちゃ?」
「あたしはべつに好きでもなんでもなかったけど、あっちがどうしても交際したいって言ってきてねー。」
「しかたなくつき合ってやった、っていうのかよ。」ケンジが眉間に皺を寄せて言った。
「そ。でもセックスはしなかったから安心して。」
「いや、今安心しろ、言われてもやな・・・。」
「ミカ姉さん、モテモテだったんだね。」マユミがニコニコしながら言った。
「ほしたら、高校卒業してから深い仲になったオトコが、もう一人ケンジの前におったっちゅうことなんやな?」
「その『二人目』の男の人ってどんな人だったの?ミカ姉さん。」
「まだ聞くの?あたしの話。」ミカが呆れて言った。
「俺も気になる。俺の前がどんなヤツだったか、知りたい。」
「何ヤキモチやいてんの?ケンジ。」
「ヤキモチじゃなくて、単なる興味だ、興味。」
「で、で、どんなヤツだったんや?ミカ姉。なあなあ、教えたってえな。」
「あんたらは中学生の男子かっ。まったく、しょうがないねー。ケネス、コーヒーのお代わりできる?」
「ああ、もちろんや。すぐに持ってくるさかいな。」
「済まないね。」