『秘館物語』第2話「訪問者」-4
「はぁ……はぁ……」
全てが、終わったようだ。望の蕾は、何度か開閉を繰り返しながら、細かなものを吐き出しつつ、いつしかそれは途切れていた。
「………」
ぐいっ!
「あ、あっ」
それを見越して、志郎が鎖を引いた。柱から体を遠ざけられ、地を這うようにして望は肘をつく。
「!」
張り出した臀部の中央で、後拭いもしていない蕾が汚れた姿を志郎に向かって晒す体勢になっていた。
(恥ずかしい……)
排泄するところを何度も見られ、尻の穴をいいように弄ばれてきたにも拘わらず、羞恥が望を熱くする。
「あ……」
不意に、乾いた感触が蕾の表面を覆った。
「だ、旦那様……」
なんと志郎が、取り出した懐紙で望の穢れを拭っているのだ。そして、その手つきは、尻に鞭を振り下ろした者と、同一人物には思えない篤実さに溢れていた。
「あぁ……」
紙一枚を隔てながら、愛撫をされているのと変わらない志郎の指使い。巨大なモノをひり出した刺激によって望は、既にその部分が痺れたような感触を帯びている。
「あ、く……」
だから、“尻を拭く”だけの志郎の行為に、望の官能は膨らみ始め、それを示すように、おびただしく放尿した股間の湿りに粘り気が混ざり合った。
「………」
それも気になったのか、志郎は新しい紙を用意して再び拭い始める。しかし、後から後から沁み出るようにして紙を汚してしまうので、ついにその紙を全て使い切ってしまった。
「も、申し訳、ありません……」
それでも望の股間はべっとりと濡れている。
一方で、柱の根元は形容しがたいほどの汚物でまみれ、離れていても伝わってくる悪臭を放っていた。
「………」
この後始末をどうしたらいいのか考えるよりも先に、望は熱がこもる自分の陰部を志郎にどうにかして欲しかった。
…だが、それは叶わぬ望みだということも彼女は知っている。
志郎が自らの欲望でもって、濡れて淫靡な様を晒している女の部分を責めることはない。これまでもそうだったし、なによりその理由を望は知っている。
(でも、いい……こんな形でも、私は構わない……)
犬にされ、鞭で打たれ、排泄を強要されそれを見せる。人として、女としての尊厳を奪われてもなお、望の志郎に対する情愛は褪せることがない。
時に激しい燻りを起こす彼の激情が、自分の痴態によって癒されるというのなら、望はどんな姿を晒しても厭わないと本気で思っている。
(旦那様が、いなかったら……。私……私は……)
この世に存在していたか、疑わしい。絶望に浸り、抜け殻になっていた自分の体に命の流れを取り戻してくれたのは、この志郎なのだ。
(だから……だから……)
再び鎖を引かれ、撒き散らした汚物の沼をそのままに、“散歩”を始める主従。
(旦那、様……)
望の瞳の色は、妖艶な輝きに満ち満ちて、心の底から“雌犬”に成り果てて、志郎への従属を愉しんでいた。
「あ、い、イクッ! ああぁああぁぁぁぁ!!」
碧の頤が反り、背が反った。それを眼下で確認した浩志は、柔らかく熱く、そして湿っていた部分から張り詰めている自己を抜き出す。
「くっ」
そのまま、全てを開放した。
びゅるっ、びゅるびゅるっ、びゅるるっ!
白濁した濃い液体が、ほとばしるように振り撒かれる。
「あ、ああ………」
絶頂の余韻の中で感じる熱い感触に、碧は恍惚とした。そして同時に、少し残念な想いも抱いた。
(また……外に……)
浩志は必ず、碧の外で射精する。“膣外射精”は決して避妊行為には当たらないが、それを意識しての行動であるとも言えるので、当然ながら浩志にはその辺りの慮りがあるのだろう。
(熱いものが……欲しい……)
しかし、男の熱い精を胎内で受け止めたいと思う女の性が、今の碧にはあった。それに伴う結果を考えられないほど、彼女は覚えたばかりの性欲に身を焦がしていた。
「はぁ…く……」
射精の余韻を、深いため息で表現する浩志。
ややって、彼は、碧の背中に振り撒いた欲望のなごりを、ウェットティッシュで綺麗に拭い取った。