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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第10話-36

 4番の桜子が打席に入る。彼女も、相手が女投手であることにまず驚きの念を抱き、それがさらに、“左下手投げ”と来たものだから、何ら対策が頭に浮かばないまま、漠然と打席で構えを取ることしかできなかった。
 左打者の雄太とは違って、投球フォームの全容を見ることはできる。しかし、身体に隠されたような軌道を描く腕の振りから、一気に弾き出されたボールが、アウトコースの手の届かないような場所に投じられて、桜子はそれを見送ることしか出来なかった。
「ストライク!」
 え、と思わず桜子が唸る。どうやら、ホームベースの本当に一番角を、かする程度でストライクゾーンを通過したらしい。
(あ、あれが、ストライクになるの!?)
 “左下手投げ”でなければ、到底あり得ない、特有の角度を持った“ストライク”であった。
「ストライク!!」
 続く二球目も、同じ軌道だった。桜子は何とかバットを繰り出したが、手振りになったそれはスイングの勢いもなく、空振りに終わってしまう。
「ストライク!!! バッターアウト!!」
 余裕を失った三球目は、明らかなボール球に手を出してしまった。慌ててスイングを止めに行ったが間に合わず、スイングを取られてしまって、敢え無く桜子も三振を奪われてしまった。
「あぁんっ!!」
 珍しく、悔しさを顕にする桜子。
(そうだ、大和に…)
 球の軌道が、これまで見たこともない軌跡を描くことを伝えようとして、桜子はウェイティングサークルに立つはずの大和を見遣る。
「え……?」
 大和はまだ呆然と、マウンドに立つ女投手の方向を見ていた。声をかけられるような、雰囲気ではなかった。
「バッターラップ!」
「あ、まっ……」
 桜子が声をかけるよりも先に、主審からの催促を受けて、大和はゆらりとした足取りで打席に向かって行った。そのため、桜子は何もいえなかった。
「ストライク!!! バッターアウト!!!」
 そしてそのまま、大和が、スイングもせずにたったの三球で、見逃し三振で倒れてしまうという、本当にあり得ないようなシーンを目にすることになった。 



(葵さん、が……)
 攻守交替して、マウンドに立つ大和は、ほとんど無意識でその場所にいた。
(ここに、いた……)
 何処かのチームに所属しているかも、と、そう覚悟はしていた大和だ。しかし、いざ、こうして対峙してみると、たちまちその意識は乱されて、散り散りになって収拾がつかない。
 この回の先頭打者は、3番の六文銭である。
(………)
 桜子のサインは、“スパイラル・ストライク”であった。そういえば、マウンドに立つ自分の側に来て、何かを言っていたような気もしたが、大和は全く覚えていない。

 キン!

「!」
 桜子が求めてきたものとは、全く相反する、真ん中高めのストレートになってしまった。もちろん、六文銭がそれを見逃すはずはなく、痛烈なセンター前のヒットになって、出塁を許してしまった。


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