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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第10話-37

「ドンマイ! 次、次いくよ!」
 桜子の声が、届かない。まるで音の記号のようにしか聞こえないそれを、大和は完全に聞き流していた。

 キィン!!

「!」
 4番は安原誠治である。初球はかろうじて外角のボール球になったが、二球目は内側に入ってしまい、それをいとも簡単に弾き飛ばされた。
 弾道が低かった為、フェンスに直撃することになったそれは、しかし、一塁走者の六文銭を、悠々とホームに迎え入れる適時二塁打となった。
 5番打者・二階堂が、打席に入る。それに対する初球が、真ん中にいってしまった。

 キィン!

「………!」
 いくら球威があろうとも、コースが甘ければ弾くのは容易である。まして、相手は優勝候補の5番打者・二階堂だ。
 易々と外野の深いところへ運ばれたそれは、安原誠治を歩くような速度でホームに帰す二塁打となり、あっと言う間に2点を勝ち越された。
「………!」
「………っ」
 雄太が、結花が、何かを言っている。励ましの言葉だと言うのはよくわかるのだが、大和には何も聞こえない。
 6番打者・佐伯。強い当たりの打球は、しかし、運よくセカンドの正面となり、結花がしっかりとそれを掴んだ。
 ようやく一死を取ったのもつかの間、7番打者に、またしても真ん中に寄ったストレートを痛打され、三遊間を破られた。
 8番。…大和は、いつの間にかその8番打者が二塁にいることに、自分が打たれたのだと言う認識もないまま、気がついた。走者一掃の二塁打を、8番打者・阿藤は打ち放っていた。
『9番・ピッチャー・水野』
 アナウンスの言葉に、胸がズキリと痛んだ。左打席に立つ選手は、紛れもなく、かつての恋人・水野葵、その人だった。
(あ、おい、さん……)
 視線が、交錯した。
 瞬間、その顔がいつぞやのように、ニタリ、と冷たく歪んだ笑みを浮かべた。サンドバッグになっている自分の無様な姿を、“いい気味だ”と、あざ笑っているようにも見えた。
 もう、大和は完全に崩れ去っていた。力のないストレートが、ど真ん中に入る。
 身体の柔らかさを生かした葵の、しなるようなバットスイングが、大和のストレートを強く叩いた。打球は、バックスクリーンに向けて鮮やかな軌道を描き、失速する気配も見せぬまま、そのままフェンスを越えて、飛び込んだ。
「………」
 ベースを一周する葵は、マウンドに力なく立ち尽くす大和を一瞥することもなく、淡々とホームに還り、そのままベンチへ戻っていった。


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