投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 699 『STRIKE!!』 701 『STRIKE!!』の最後へ

『SWING UP!!』第10話-35

「なに? 女、なのか?」
 身長は170センチ半ばぐらいはあると見えたので、女性だと言うことは想像だにしなかった。しかし、一度それを確認すると、体つきから髪の質まで、間違いなく女性のものだと雄太は確信する。
 戸惑いを含んだまま、打席の中で構えを取る。相手がサウスポーなので、幾分足は開いたものにして、球筋をまずはしっかりと追いかけようと、腕と腰のバネを引き絞りながら、相手の投球に備えた。
 水野、という女投手は、大きく振りかぶった。とても長い腕だと、思った。
「!」
 投球練習ではそうだったので、そのまま上手投げで来るかと思った。しかし、水野葵の投球モーションは、そのまま一瞬沈み込んで、踏み出した足がマウンドの土を削った瞬間、その左腕は下手からの軌跡を描いた後、指先からボールが弾き出された。投球練習の上手投げは、フェイクだったと言うのだろうか。
(み、見えねえ!?)
 それよりも、球の出所が全く分からなかった。そもそも、“左下手投げ”という、今までお目にかかったことのない投球モーションなのだ。そこから来る軌道を、初見で捉まえろというのが、無理な話である。
「ストライク!」
 雄太の眼前を、あざ笑うかのように通り過ぎて、外角の遠いコースに、ストレートが決まった。鋭角的な軌道で、ベースの端を掠っているそれは、紛れもない“ストライク”である。
(く、くそぉっ!)
 雄太は、スタンスを更に大きく広げた。球の出所が見えないのでは、スイングの始動を図れない。
「ストライク!!」
 雄太の企図は、しかし、有効にはならなかった。同じような外角のストレートに、成す術もなく雄太は見送り、あっという間に追い込まれてしまった。
(こ、これならどうだ!?)
 完全に相手投手と向かい合うぐらいに、スタンスを広げた。
「あ」
 ようやっと、下手投げから繰り出される球の出所を視界に捉えた。腕の長さに加えて、かなり柔らかい身体の持ち主なのだろう。リリースする瞬間まで、腕がしなりを持っていて、それが鞭のように弾き出されたときは…。
「ストライク!!! バッターアウト!」
 雄太のスイングは、すっかりそのバランスを崩されて、泳いだような力のない空振りで三振に切って取られていた。そもそも、遠く外れたボール球だったのだから、普通のスイングでも届いたかどうか怪しいところでもある。
 左下手投げが生み出す“角度”によっても、雄太は幻惑されていたのである。
「やられたぜ…」
 打席を桜子に託して、雄太はベンチに引き上げて行った。
(ん?)
 ウェイティングサークルを前に、大和が立ち尽くしている。
(なんだ、大和のやつ。ぼーっとして…)
 マウンドを凝視するその姿は、相手の投手を研究しているとか、そういう具合のものには感じられなかった。なんというか、魂が遊離しているような雰囲気さえあるのだ。
 雄太は怪訝な思いを抱いたが、特に詮索することもなく、ベンチの中へ戻っていった。彼もまた、突如として現れた“左下手投げ”という変則投手の存在に、余裕を失っていたところもあったのだ。だから、大和の様子に気づいていながら、それを気にかけることが出来なかった。


『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 699 『STRIKE!!』 701 『STRIKE!!』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前