『SWING UP!!』第10話-33
試合は、以下のように進んでいる。
【双葉大】|000|000| |0|
【仁仙大】|010|100| |2|
4回の裏に、仁仙大は追加点を挙げていた。
2番の横山が、大和の外角ストレートに対して、鈍い当たりながらライト前に落とす安打を放ち、3番の六文銭は、なんとこれを送りバントで二塁に進めたのだ。
たとえ3番でも、要所であればバントを辞さない。それもまた、仁仙大学の慎重な試合運びを感じさせる事象であった。
無死二塁と言う好機で、打席に入った4番の誠治。初球は内角低め(ストライク)、二球目は外角低め(ストライク)、三球目は同じく外角低め(ボール)と、第1打席とは違って、桜子と大和のバッテリーは慎重な配球でこの強打者と相対した。
ツーワンのカウントで、“勝負”と見極めた、四球目。それは、“スパイラル・ストライク”ではなく、内角低めの膝元を貫くストレートであった。
誠治のバットは、やや遅れたタイミングで始動した。彼の頭には、“スパイラル・ストライク”が入っていたのだろう。振り遅れた時点で、軍配はバッテリーに上がったようにも見えた。
しかし誠治は、すぐにスイングを広角的なものに切り替えてそれを流し打ちにし、一・二塁間をしぶとく抜いていく打球を放った。おそるべき、切り替えの速さと、スイング・コントロールである。
打球の弱さがここでは災いし、栄村の必死の返球も実らず、二塁走者の横山が生還した。追加の2点目が、仁仙大学に入った瞬間であった。
6回裏にも、誠治に打席が廻った。初球に“スパイラル・ストライク”を投じたが、これを狙っていたのか、誠治のスイングはそれをしっかりと捉え、レフト前にヒットを放った。
ただし、打球が上がらなかったのは、球威に押されたからであろう。誠治は、狙っていながら単打にしか出来なかった大和の“スパイラル・ストライク”が持つポテンシャルに、一方ならぬ脅威を感じざるを得なかった。
試合が終盤に入り、劣勢に陥る双葉大学。
相手投手・関根の、のらりくらりとかわす投球に、いい当たりを放ちながら得点を奪えない辺り、翻弄されていると言ってもよかった。
だが、このままで終わるわけには行かない。
「!」
7回の表、先頭の桜子が放った打球が、凄まじい弾道で三遊間を破り、ヒットになった。続く大和も、一・二塁間をしぶとく抜けるヒットで続いて、吉川が進塁打を放ち、一死・二・三塁の好機となった。
7番の浦が打席に立つ。その、初球であった。
三塁走者の桜子がスタートを切った。浦が、すかさず、バントの構えを取る。
エレナが動いたのだ。サインは“初球スクイズ”。普段は三球目で発動するスクイズだが、エレナから発せられるサインにのみ、発動時期が変更する隠しサインがあった。
2点の差がある今、相手バッテリーはスクイズの可能性を感じながら、正直なところ警戒を薄めていた。その裏を突くように、相手のお株を奪うかのような、大胆かつ慎重な一手を打ってきたのだ。
仁仙大学の守備陣は、1点はすでに諦めて、一塁でアウトを取った。双葉大学は、ようやく1点を挙げ、1点差に詰め寄ったのである。