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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第10話-13

「たまにはおウチに、御飯も食べに来てよぉ」
「たまにはって、まだ家を出てから、一ヶ月も経ってないよ…」
「もう2週間も経ってるのよっ、お姉ちゃん寂しくて、どうにかなりそう…」
「わ、わかったよ。近いうちに、顔を見せるよ」
「本当!? 本当ねっ! その時は、航ちゃんの好きなもの、いっぱい用意するからね!!」
 少し触れたように、双子のきょうだいの片割れである木戸 翔は、静岡サンパルスのユース・チームから昇格して、年代別の代表にも選ばれた若きJリーガーである。その翔は、トップチームへの昇格を機に、早い時期から家を出て、クラブチームが構える宿舎で起居するようになっていた。
 最後まで木戸家に残っていた航だったが、この4月から一人暮らしを始めたので、美野里にとって、かわいい弟たちが二人とも家にいなくなったことに、随分と寂しい想いをしていたのだ。
 それを享けての、航への過干渉になっている。
「くっ……ぷぷっ……」
 その様子を見て、結花がたまらず、吹き出していた。
「あら?」
 それで、美野里がようやく、航の隣の席に座る結花のことに気がついた。
「あ、す、すみません。笑ったりして……っっ」
 二人のやり取りに失笑してしまったことを、失礼だと感じた結花は、すぐにそれを引っ込めようとしたのだが、どうにも思い出してしまって、言葉の終わりのほうは、吹き出しているのと変わらないものになった。
「か、片瀬、結花、です。は、はじめまして」
「あらあら〜」
 息も絶え絶えに挨拶をする結花を凝視していた美野里は、その顔を嬉しそうに綻ばせた。
「なになに、航ちゃん。もう、こんな可愛い子を見つけたのねっ。はじめまして、…えっと、片瀬の結花ちゃん、ね。わたし、航ちゃんの義理の姉で、美野里って言います。よかったら、“みの”って呼んでね。それにしても、ほんとに可愛らしい子ねぇ。いわゆる、“めんこい”って、結花ちゃんみたいな子のことを言うんじゃないかしらぁ」
 美野里のマシンガン・ワード・ラッシュを受けて、結花は押され気味になっている。
「ほんと、可愛らしいわぁ、航ちゃんにぴったりねっ」
 だが、“可愛い子”と連呼されれば気分が悪いはずもなく、しかも、“航にぴったり”とその身内に言われてしまったものだから、結花の顔はこの日で飛び切り一番、真っ赤になった。
「航ちゃん、だめじゃない。こんなに可愛い子と一緒になったのなら、すぐにウチに連れてこないと〜」
 ぷんぷん、という擬音を当てはめたいぐらいに、可愛く憤る美野里。
「だめじゃない」
「じゃない〜」
 いつの間にか母親の足元にやってきた美加と美玖にも、航は攻撃を受けていた。
「えっと、あの…ごめん」
 抗弁の言葉を並べようとして、それが無駄なことだと観念した航。
「いいこと? 今月のうちには、絶対に、結花ちゃんも連れて、おウチにくるのよっ! 結花ちゃんの好きな物は、なに? まさか、それも知らないなんて、言わないわよねっ! ちゃんと聞いて、教えなさいねっ! え? 今、聞けばいいって? 何、言ってるのっ! 自分の大事な人の好物は、きちんと自分で聞かなきゃダメなんだからねっ!」
 もうこうなると、どうしようもないのである。
「くくっ、う、うぷぷぷっ!」
「片瀬ぇ…」
 もう勘弁して欲しい、という航の表情をよそに、三度笑いのツボを押された結花は、口元を押さえて悶絶しながら、それでも、とても幸せな空気を感じていた。
「務さん。今日の“中華定食”なんだけど、鶏肉の焼きが、少し多すぎるかも。旨みが、ほんの少しだけ足りない気がします」
「おう、そうか。そういえば、“中華定食”は大和君の好物だからな。きちんと作れるように、俺も頑張らなきゃな!」
 そんな隣の喧騒を聞きながら、やはり大和は冷静に、務の供した“中華定食”の感想を述べていた。
 何処までも自分の世界を持ち続ける男…それが、草薙大和であった。


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