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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第10話-14


「ごめんね、大和。あんまり、一緒にいられなくて…」
 “蓬莱亭”での楽しい時間は終わりを迎え、帰宅する大和を玄関先で桜子は見送っていた。今日は定休日でもあったから、務と美野里は、娘二人を連れて既に帰途についている。
「………」
 本当なら、大和には家に泊まっていって欲しかった。実際、龍介も由梨も、それを歓迎するだろう。
 しかし、由梨の体調を慮る大和は、それを潔しとしなかった。
「今は、由梨さんのことを、一番に考えなきゃ」
「うん、わかってる」
 初めての妊娠に伴う体調の変化に、戸惑っている姉を支えてあげたい。これまで、姉の由梨にはたくさん世話をしてもらってきたから、桜子は、姉が元気な赤ちゃんを産むまで、自分の時間は、軟式野球部以外のところでは、姉のことを最優先にしようと決意している。
 大和との半同棲生活を一旦打ち止めにしたのも、その気持ちからだ。
「ありがとう、大和」
「お礼を言われることは、何もないよ」
「ううん、言いたいの。大和が、あたしたちのこと、全部、わかってくれること」
 家庭の事情、それを全て受け止めて、桜子の思うことを尊重してくれる、大和の心がとても嬉しいのだ。
「じゃあ、おやすみ、桜子」
「うん、おやすみ」

 ちゅ…

 と、軽いキスだけは、忘れなかった。
「………」
「………」
 結花と航は、少し先に“蓬莱亭”を後にしていた。しかし、航が珍しくも、定期入れをポケットから落としてしまっていたらしく、それを取りに戻ろうとしたところで、二人のやり取りを目にすることになってしまった。
 邪魔のできるような雰囲気でもなく、暗がりから遠目に見守るしかない。
「もう、決まりだよね」
「まあ、そうだろうな」
 この期に及んで、と言うべきだろうが、二人が交際していると言う事実は、はっきりそれを本人たちの口からは、確認していない。もっとも、二人の雰囲気からして、その既成事実を周囲に振りまいていることもある。加えて、キスの光景を図らずも目にしてしまえば、何をどう考えても、二人は恋人同士だとわかる。
 だから、結花はもう何も聞こうとは、思いもしなかった。多少の感傷も、あるにはあったが…。
「いくか。邪魔をしちゃ、いけないしな」
「定期、どうするの?」
「明日、電話でもして確認してもらうよ」
 定期がなくとも、現金で切符を買うことは出来る。
「そうね。邪魔しちゃ…いけないもんね」
 結花の言葉には、目の前の光景以外の何かが、含まれているようにも思えた。


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