『SWING UP!!』第9話-1
第9話 「ANOTHERMEETNG 〜再会〜」
春である。
新しい季節の到来は、街の至るところに新しい風を運び、浮き立つ心模様を、其処彼処に描き出していた。
「ふふ、ふふふ……」
そんな雰囲気の中、スレンダーな少女・片瀬結花が立っているのは、双葉大学の催事施設である“志史館”の玄関前だ。今からここで、双葉大学の入学式が執り行われようとしている。
「ついに来た……来たんだわっ!」
そして、その入学式に参加することになっているこのスレンダーな少女は、当然ながら、双葉大学に新しく進学してきた“新入生”である。
「わたしの出番が、やっと来たのよっ!」
どーん、と背後にそんな効果音を乗せたくなるような、ことさら気合の入った様子の、スレンダーな少女・片瀬結花だった。
(ちょっと)
…はい?
(スレンダーを強調する理由は何よ?)
…端的に言ってもいいなら、言います。
(言いなさいよ)
…つるぺた。
ガンッ!
…第3世界に石を投げ込まないでください。というか、第3世界に割り込まないでください。ずっと出番がなかったのは謝りますから。
さて、である。
「やけに気合が入ってるな、片瀬」
そんなつる……スレンダー少女・片瀬結花の姿を、間近で見ている朴訥な雰囲気の少年がいた。大学生を相手に“少年”というのもどうかと思うが、ほんの数ヶ月前まではブレザー姿のあどけない高校生だったことを思えば、やはりまだ“少年”といったほうがしっくりとくる。
「まあ、予備校でも“絶対、双葉!”って、言ってたもんな。当然か」
「まあね。でも、まさか、木戸も双葉志望だったなんて、知らなかったわ」
「言ってなかったか?」
「うん」
そうか、と意外な様子で、“純朴”という言葉が似合う少年・木戸 航が結花に応えていた。そんな彼もまた、双葉大学の新入生である。
「あんたのことだから、野球部で有名なところに行くのかなって、思ってたんだけど…」
「お呼びがかからなかったしな。俺も、区切りをつけようと思ってたから…」
「ふーん。もったいない気もするけど、あんたがそう決めたんなら、わたしがとやかく言うことじゃないわよね」
なんとなく残念そうな様子の結花であった。航は、そんな彼女に苦笑しながら、ひとつ言葉を付け加える。
「言っとくが、野球をやめるわけじゃない」
「? …じゃあ、あんたも入るのね」
刹那、結花の表情が、喜色に煌いた。目の前にいる純朴な少年も、自分と同じ場所に来るという確信が生まれたからだ。
“仲間”と認める存在が近くにいるというのは、純粋に嬉しいことである。
「片瀬もだろ?」
「当たり前じゃない!」
何をか言わん! とでも言いたげに、腕を組んで、ない胸を反らせる結花。
「この大学に来た理由は、ただひとつ!」
そして、びしっ、と指を一本立てる。何かにつけ彼女は、オーバーアクションである。
「双葉大学軟式野球部が、わたしを呼んでいたからよ!!」
そして、入学式の壇上に立つ予定のお偉いさんが聞いていたなら、卒倒しそうなことを大声でのたまっていた。