『SWING UP!!』第９話-4
「「三角キャッチボール？」」
「うん、そう。三人でやるなら、それが一番だよ」
着替えを済ませ、ランニングとストレッチによって身体を充分に暖めた後、早速ボールを手にした大和は、三人それぞれの位置を結んだときに、正三角形になるようにして結花と航を立たせた。
もちろん、結花と航の手には、グラブが既に嵌められている。
「僕が投げたボールを受け取ったら、キミたちは必ず、僕じゃない相手にボールを投げるんだ。でも僕は、どちらにも投げるようにするから…」
送球のパターンとしては二通りになるよ、と大和はそう繋げた。
図式にしてみると、以下のようになるであろうか。
大和→結花→航→大和、と、これがひとつめ。
大和→航→結花→大和、と、これがふたつめ。
「それじゃあ、いくよ」
言うや大和は、まず早速、結花に向けてボールを投げた。
パシッ。
と、軽快な音が鳴り、すぐさま結花は、自分の右側に位置する場所に立つ航へ向けて、大和から受け取ったボールを投げ渡す。なかなか機敏な身体の裁き方であった。
パシッ。
と、こちらも軽く快い音が鳴り、結花からの送球を受け取った航は、きっちりと自分の身体を大和に向けて正対するようにして、ボールを廻した。
ビシッ。
と、なかなかに鋭い音が大和のグラブを鳴らす。
「よし、どんどんいくよ」
大和は再び、結花に向けてボールを投げる。それを受け取った結花は、先ほどと同じようにスピーディーな身体の動かし方で、航に向けてボールを放る。航もまた、一投目と同じように、大和の立つ位置へ正確なボールを投げ返す。
そのパターンで１０周もした頃であろうか。
大和は特に何かを宣言するでもなく、航から受け取ったボールを、そのまま航に向けて送球した。
「！」
ビシッ、とグラブに重い感触が響く。
その手応えのよさに、少しばかり間を作ってしまった航だったが、すぐに我に返って、キャッチボールを始める前に大和が言った様に、自分の左側の位置に立つ結花へと、ボールを投げた。
「っと」
幾分、右側に送球がそれたが、結花が機敏に反応してそれを掴み、グラブの位置は戻さないまま、右手を素早くその中へ押し込んで、掴んだボールを間髪入れず、大和へ向けて送球した。
ビシッ。
「ナイスボール」
大和のグラブを鳴らした音は、航に投じていたそれよりも、遥かに良い音が鳴った。
結花のために弁解しておくが、航のことを軽んじたわけではない。少しばかり反れたボールを掴んだ流れの中での、大和への送球だったので、まるでゴロを捌いた時のような、よりスナップの利いたものになったのだ。
「どんどんいくよ」
大和、航、結花、そして、大和。二つ目のパターンでボールが１０周する。すると、それを見計らったように、大和は再び、結花に投げるパターンに戻した。
「サイクル、短めにするよ」
今度は、５周ほどでパターンが変わった。その次は、３周になった。かと思えば、再び５周になるときもあった。だが、送球のスピードは矢継ぎ早に短くなっていた。
「よし、これまで！」
合せて１００周以上はしたであろうか。スナップが良く利いた結花からの送球が、大和のグラブを高く鳴らしたとき、結花も航も、キャッチボールだというのに、随分と荒い息をついていた。
対して、大和は涼しい表情のままだった。