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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第9話-3


「改めて、だけど…」
 常備しているカセットコンロで湯を沸かし、インスタントだがコーヒーを二人に振舞う。先輩に饗応してもらえるとは思わず、結花も航も、恐縮したような様子で、共用のマグカップを受け取っていた。
 当然ながら、双葉大学軟式野球部には、体育会系にありがちな歪んだ上下関係はない。“隼リーグ”の理念に謳われているように、性別、年齢、国籍を問わず、野球が好きな連中が集まり、それぞれ切磋琢磨することが目的の集団なのだ。
「僕は、草薙大和。史学科の2回生で、チームのピッチャーをしているよ」
「!」
 大和が口にした“ピッチャー”という言葉に、いち早く反応したのは、結花だった。
「センパイ、ピッチャーに戻ったんですか!?」
「ああ」
「それじゃあ、肘、大丈夫になったんですねっ」
「うん」
「そうなんだ……そうなんだ……」
 結花の瞳が、少しだけ潤む。
「よかったですね、センパイ……よかったぁ……」
「ありがとう、結花ちゃん」
 真っ正直なその気持ちが、大和にはとてもありがたいと思った。
 大和にとって、結花は、肘を故障した後“チカン騒動”を経て知り合ったこともあり、高校が同じでありながら“甲子園の恋人”という過去をあまり意識せずにいられた知己だった。
 それでも、結花にとっては、右肘の故障によってマウンドから去ることになった大和のことは、それを言葉に出さずとも、随分と気にかけていたのだろう。大和が、投手として復活を果たしたと知ったときに見せたその涙は、彼女が心根の優しい、情の深い人であることを表している。
「本格的にピッチャーに戻ったのは、半年ほど前なんだけどね」
 そのうえ、公式戦では先発したことはあっても、完投をしたことがない。1部リーグでの戦いが始まれば、雄太からエースの座を受け継いだ大和が、先発としてマウンドに立つことになるのだが、長いイニングを投げることも含めて、まだ未知数なところが多いのは否めなかった。
「木戸君のお兄さんにも、凄く世話になったんだ」
「兄貴に、ですか?」
「うん。君も出ていた、あの練習試合の後の、わずかな時間の指導だったけど、僕にとってはすごく大きかったよ」
 航も参加していた練習試合の後、彼の兄である木戸亮から受けた指導が、大和の完全復活における“大転機”となったのは間違いない。
 身体全体の“軸”と“回転”を意識すること。ピッチングフォームを総括的かつ連動的に捉え直すその意識によって、苦しめられていた肘の違和感が嘘のようになくなり、結果、大和は新しいストレートの回転を手に入れ、必殺のウィニングショット・“スパイラル・ストライク”をも身につけたのである。
 大和が“みんながくれたもの”と言い表す、右腕に宿った新しい力には、航の兄である木戸亮の存在も、大きく関わっているのだ。
「それにしても、心強いな。君たちがチームに参加してくれるのは」
 結花は、母校の軟式野球部でもレギュラーを張っていた選手であるし、また、航についても、あの時の練習試合で随所にセンス溢れるプレーを見せていたことを、よく覚えている。
「なにしろ、9人しかいないからさ」
 ベンチ入りの選手が確保できるという意味でも、2人の加入は大きな戦力補強であった。
「今日がオフじゃなかったら、みんなにすぐにでも紹介できるんだけど…」
 あいにくと今日は、練習日ではなかった。もし皆がこの二人の入部を知ったら、どれだけ喜んでくれるか、大和は楽しみに思っている。
「お休みだったんですか? あれ、じゃあ、センパイはなんでここに?」
「今日はバイトもないから、少し身体を動かそうかなと思って」
 エースの座を雄太から受け継いだとき、独自調整が必要なときもあるだろうからと、部室小屋のスペアキーを持たせてもらった。それで、オフ日であるにもかかわらず、大和は部室に顔を出していたわけである。
「ひとりでできることといったら、ランニングと、シャドー・ピッチと、サーキット・トレーニングくらいだけどね」
「センパイ、なにをいってるんですか」
「?」
「今日はもう、“ひとり”じゃないですよ」
 結花は、自分を指差しながら言った。
「お手伝いします!」
「よければ、自分も」
 その後を受けるように、航も実直な物言いで申し出ていた。
 息のあった雰囲気を持つこの二人、ひょっとしたら名コンビになる素質があるかも、などと大和は思う。
「でも、着替えとかはある?」
「センパイ、わたしを誰だと思ってるんですか? スポーツウーマンたるもの、常に運動の用意は忘れるべからず、がモットーですよ」
「ジャージもグラブも、バッグに常備していますから」
 ますます頼もしいな、と、大和は二人の様子を見て満足そうに微笑んだ。


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