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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第9話-2


 入学式とガイダンスが終わり、資料なり記念品なりを詰め込んだ手提げ袋を手にしたまま、結花と航は連れ立って、目的の場所を探していた。
「えーっと…。あ、あのプレハブ小屋ね。あんた、よく知ってるわね」
「去年、ここで練習試合をしたことがあったんだ」
「む、ずるいわね」
「なんだそりゃ」
 結花としては、少し、先を越されたような気がしたのだ。この軟式野球部を目標にして、不得手な科目を猛勉強してきた結花だけに、既に“勝手知ったる”という航の雰囲気が、ちょっとばかり面白くなかったらしい。
(わたしなんて、ずっと、会いたいの我慢して、頑張ってたんだから)
 考えてみれば、結花が目標としてきた“再会”には、一年というインターバルがあった。
「誰か居るかな?」
 航が入り口で気配を伺う。ちなみに、180センチ以上の身長があるものは、悉く“洗礼”を受けるという例の出っ張りだが、その身長に達していない二人にとっては無意味なものであった。
「ひとり、誰かいるみたいだ」
「そう。じゃあ」

 ぐ…

「………」
 ドアに手をかけた結花だったが、まったく動く気配がない。それより、ノックをしないのは、どうかと思うのだが…。
「そこのドア、開けるのにコツがいるらしいぞ」
 立て付けの悪さは、改善されていないようだった。ともかく、ノックをしなかったことを指摘しないのは、どうかと思うのだが…。
「?」
 手をかけたときにドアは揺れたので、“いるみたい”だという中の人物が、近寄ってくる気配があった。

 がら…

「!」
 と、内側からドアがスライドして、その人物が姿を現したとき、結花の表情が喜色一面となった。ずっと思い描いて、それでも会えなくて、再会を待ち焦がれていた姿が、そこにあったからだ。
「センパイ!!」
「!?」
 草薙大和が、そこにいた。いきなり親しげに“センパイ”と呼ばれたことに、珍しくも戸惑いと驚きの表情を浮かべていた。
「え? 結花ちゃんなのかい?」
「そうです! 片瀬結花です!」
 制服姿とは違う可憐かつ凛々しい装いだったので、大和もなかなか画像が一致しなかったらしい。それでもややあってから、変わらない結花の元気なオーラに懐かしさを覚え、頬を緩ませた。
「久しぶりだね」
「そうですよ! センパイ、薄情なんだからっ……」
 卒業式で挨拶を交わしてから、今まで顔を合わせることがなかった。
 もっとも、連絡先を交換する勇気を持てなかった結花にも一因はある。だが、OBとして母校のグラウンドに顔を出すことも期待していた彼女としては、それもなかったことが恨み節となって口をついていた。
 大和は今、“豪快一打”でアルバイトをしているのだから、そこで接点があってもよさそうだったのだが、長期休暇の一時期を除いて、大和がシフトに入るときは、大体夜の数時間ということがほとんどだったため、そこでもすれ違いが発生していた。
 結花自身も、当初のボーダーラインでは全く届いていなかった双葉大学に合格すべく予備校通いをしていたため、“豪快一打”に通う機会はかなり減っていた。たまの気分転換に立ち寄ることはあっても、結局のところ、大和とは会えないまま今日を迎えたのだ
「センパイ…」
 だが、ようやくにして再会を果たすことが出来た。結花にとって、本願の一つが幸先よく叶ったことになる。
「…と、いうわけですので、片瀬結花は本日より軟式野球部に入らせていただきます! センパイ、よろしく、面倒見てください!!」
 びしっ、と敬礼を決めてみせる結花であった。
「変わらないね、結花ちゃん。なんだか、安心したよ」
 何かにつけ、オーバーアクションなところのある後輩の姿に、大和は微笑んでいた。
 次いで、大和は、結花の後ろに控えていた少年・航のほうを向く。結花には少し可哀相な話になるのだが、大和にとっては航の顔の方が、非常に興味深く、また、再会を喜ばしく感じさせるものとなっていた。
「君も、来てくれたんだね」
「あ、はい。……俺のこと、覚えてるんですか?」
「当然だよ。木戸、航君だよね。去年ここでやった練習試合で、センターを守っていた」
「は、はい!」
 まさか、名前だけでなく、守備位置まで記憶してもらっているとは思わず、航の顔は紅潮した。人は感激すると、興奮が身体を走り、血流が良くなる。
「立ち話もなんだし、入りなよ」
「「失礼します!」」
 まるで図ったように重なった二人の返事が可笑しいほどに初々しく、一年前の自分もこんな風だったのかなと、大和は一人、感慨に耽っていた。


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