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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第9話-19


「今日は随分張り切っていたな」
 クールダウンを済ませ、先輩たちと改めて挨拶を交わしてから、結花と航は家路に着いた。
 結花は実家住まいだが、航は今年に入って一人暮らしを始めており、時間帯のことも考えて、結花を航が送り届ける流れで、二人は並んで家路を辿っていた。
「自然とね、身体が動いたっていうか…」
 久しぶりに充実した気分が結花にはあった。受験勉強から開放されて、こうやって野球に専念できたのも久しいことだから、余計に張り切ったところもある。
「いいチームだよね。わたし、ここに来て本当に良かった」
「そうか」
 憧れであった大和を追いかけてきた。その最大の目標は、初日に儚くも霧散してしまった。それで、何かを見失いかけたのは事実だ。
 しかし、今日、初めて本格的に参加した練習で、野球のことが本当に好きだという気持ちを改めて思い出したし、また、女子である自分をすんなりと受け入れてくれた先輩たちにも、大きな好感を持つことが出来た。
 自分の選択は、間違っていなかったと、自信を持って言える。それはとても、大きなことだった。
「あの二人って、なんだか絵になるよね」
「そうだな」
 結花が言っているのは、桜子と大和のバッテリーである。試合を模したフリーバッティングの時だけでなく、キャッチボールや投球練習、そして、普段の何気ない動きの中でも、お互いを深く信頼しているという、息の合った雰囲気を醸し出していた。
(元・甲子園のアイドルに、元・バレーボールの日本代表…)
 本当にお似合いだと思う。それだけに、結花の中でのケジメが、早い段階で果たされたのは、ちょっとばかり悔しいことだが、逆に良かったと自分で割り切ることが出来た。
「………」
 そうなると、ひとつ、残された問題がある。
(木戸は…)
 相変わらず寡黙だが、結花の歩く速度にしっかりと歩調を合わせ、自分が車道側に廻らないように、さりげなく位置取りをしている。横断歩道を渡るときも、左右に注意を払って、危険がないことを確かめながら、結花を先導している。
 昨日、その背中に取り縋って泣いてしまった自分のことを追求もしない。今のあるがままに、自分を受け止めてくれている航の様子だ。
 その姿勢に、心が暖められていることを、結花は無意識に感じていた。
(わたしのこと、どう思ってるんだろう…)
 いつもの調子の結花だったのなら、話の流れで簡単に切り出すことも出来ただろう。だが、なぜか、航に対してそれを言い出せない自分を、結花はもどかしく思っている。
(“仲間”とか、そんな風に思ってるんだろうけど…)
 はっきりとそう言われてしまうことを、懼れていたのだ。“仲間”だけじゃない、もっと特別な存在だと、そう言って欲しいと思っているから…。
「片瀬」
「は、はい!?」
「家、着いたぞ」
「あ…」
 気がつけば、既に自宅の前まで来ていた。そのまま通り過ぎようとしてしまっていたところを、航に止められたのだ。
「は、はは。ぼーっとしてた」
「階段で転ぶなよ」
「む。そこまでドジじゃないわよ」
 むくれ顔になった結花。
 それを可笑しく感じたのか、航の口元が微かに笑んだ。
「!」
 その微笑を見た瞬間、胸の奥に、何かが宿る。締め付けられるような苦しさと、細かな動悸が、どんどん溢れてくるのを止められない。
「それじゃあな、片瀬。また、明日」
「う、うん。また、明日……」
 軽く右手を上げて、航が来た道を戻っていく。彼が借りているアパートは、結花の自宅から15分ほど離れた駅から電車に乗り、さらに数分揺られた後につく駅のすぐ近くにあるそうだ。いわば、遠回りをして結花を送り届けていることになるのだが、そういう律儀さを自然とこなしてしまうのが、航であった。
 曲がり角まで達して、航の背中が見えなくなるまで、結花は家の中に入ろうとしなかった。そして、そんな結花に気づくこともなく、航はそのまま行ってしまった。
 一度でいいから、振り向いて、もう一回手を振ってほしかった。
(って、何考えてんのよ!?)
 と、まるで乙女のような考えを抱いていた自分に気がつくと、強く頭を振って、らしくない姿をその場に置き去りにするように、勢いよく自宅のドアを開いて、中に躍り込んだのだった。


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