決着-10
「ま、そういうわけだから、俺は沙織に対しても気持ちはとっくにケリがついてるし、郁美ともちゃんと別れたし、自分の気持ちに決着はつけたつもりなんだ」
話してスッキリしたのか、土橋修の顔はほんの少し微笑んでいた。
そして、チラッと校舎の壁に掛けられている時計を見ると、
「お、こんな時間か。俺は電車だからお先するわ」
と言い、カバンを小脇に抱えた。
私達の街は田舎だから一時間に一本しか電車が来ない。
「うん、じゃあね」
「おう。これからは淋しいもん同士仲良くやろうぜ」
土橋修は片手をあげていつもの意地悪そうな笑顔をこちらに向けた。
「……やだ」
私が思いっきり舌を出してやると、彼はムキになったようで、
「お前、俺が友達になって下さいっつったら、はいって返事しただろうが!」
と、あげた手で私の額を思いっきりデコピンした。
「痛っ! ちょっと、本気でデコピンなんて普通する!?」
高校生にもなって、こんな子供じみた攻撃をされるなんて!
私は赤くなったであろう額を抑えながらわめきちらし、彼にビンタの一つでもしようと反撃を試みた。
「お前がムカつくこと言うからだよ」
土橋修は舌を出して、私の攻撃をひょいひょいよけている。
コイツ、ホントムカつく!!
そのうち私の右腕を掴んで抑えつけると、
「まあ、これからよろしくな」
と、なだめるように笑いかけた。
そしてそっと手を離すと、くるりと背を向け歩き始めた。
私は掴まれた腕を反対側の手でそっと触れてみた。
なぜかドキドキしている心臓と、火照った顔をなんとか鎮めようと小さく深呼吸して、少しずつ遠くなる彼の背中をジッと見つめる。
苦手なタイプのはずなのに、彼の言動や表情や仕草が平穏に暮らしてきた私の内部に小さくざわめきを起こしつつあるのを感じた。
だけどこの頃の私は、どうして彼の存在が自分のペースを狂わせているのかわからないでいた。