桃-11
「お待たせ」
彼は平らな皿にたくさんの桃をのせて戻ってきた。ソファの前のローテーブルにそれを置き、わたしの横に座った。桃の芳醇な香りが鼻に届いた。
「いい香り。桃っていやらしい。こんなにかわいらしい色をして、やわらかくて、いい香りを漂わせて、口の中で甘くとろけるんだもん」
わたしの中では、桃は性的なイメージと結びつくものだった。
「凜ちゃんも、桃に似てるよ」
彼は果物ナイフで器用に桃の皮をむきながら言った。桃の果汁が滴って、彼の整った指を濡らす。彼の指がてらてらと光る。愛液にまみれているみたいでいやらしいと思った。その指が、小さく切ったその果実を、わたしの口元に運んだ。指までくわえたくなってしまう。
果実は口の中であっと言う間にとろけた。甘美な味。彼は、桃がわたしの口の中でとろけるのをじっと見ているようだった。
「おいしい」
「凜ちゃんも・・・・・・」
彼はわたしをそっとソファに押し倒し、首筋に顔を埋めた。
「いい匂いがして、やわらかくて、甘くとろけるよ。本当は、僕だけのものにしたい。君がほしい」
そう言って、わたしの首をあま噛みした。軽い電気刺激みたいな快感が走る。