強請る兎-12
「前の生徒会長って、どんな方だったんですか?」
「うーん……どう言えばいいのかな。ちょっと臆病な人、だったかしらねェ」
「生徒会長なんかやってるのに、臆病なんですか?」
「……そうね。リクオ君に、少し似ていたかな? さ、片付いたし、帰りましょうか。シーツも洗わないとねェ」
ヨウコは何かをはぐらかすように、冗談めかして答えた。
外からの僅かな光が、ヨウコの顔を照らす。その顔は、普段通りの彼女のものだ。
だが、臆病な人、と答えたヨウコの声の響きにどこか寂しさが感じられた。
会長は、前の会長とどういう関係だったんですか?
聞きたい気がしたが、そこまで図々しく聞く気にはなれない。
なんとなく、あまり触れてはならないことのようにも思えた。
今はまだ、このままでいい。
「ねェ、この鍵、リクオ君にも預けておくわ。予備キーがあるの」
保健室を出て、鍵を締める時にヨウコは俺に二本の鍵を差し出した。
一つは保健室、もう一つは屋上の鍵らしい。
「屋上っていつも閉まってて入れないでしょう? あたし、時々一人で屋上行ってボーッとするの、好きなんだァ」
「へぇ……屋上って行ったことないな。何か、あるんですか?」
「フフ、別に何も無いわ。ただ、少し眺めがいいだけ。鍵、失くしちゃ、駄目よォ?」
「はぁ」
「あ、そうそう。明日、ツキコちゃんのお見舞い、頼めるんだよねェ? 余ったコレも渡しとくわ。こういうのは、男の子が持っとかなきゃねェ」
「これは」
「絶対行ってあげなよォ?」
そう言うと、校門を出る手前で、ヨウコは俺の頬にキスをして舌を出した。
俺の手には、二本の鍵と先程使った薄型のコンドームが何枚か握らされていた。
ツキコの見舞いの件で、何故コンドームをついでのように俺に渡すのか。
また来週、と意地の悪い顔をして言い残し、バス停まで駆け去っていく。
ヨウコの家はここからかなり距離があり、バスで通学していた。
俺は揺れるヨウコの栗色の髪を見つめながら、彼女の言葉を反芻した。
臆病者、か。
言われてみれば、俺もそうなのかもしれない。
ヨウコは俺に前の会長の面影を感じて、体を重ねているのではないか。
その想像はあまり愉快なものではなかったが、それでも俺はヨウコが好きだ。
いつか彼女に好きだと言われたい。
そんなことを考えると、先ほどの激しい情事のことを不意に思い出した。
あれだけしたのに、まだ股間に漲ってくるものがある。
俺は、そんな気持ちを抑え込みながら、手に握った鍵とコンドームをポケットにしまって、ひとり帰途についた。