熱い吐息T-1
ゼンの濡れた眼差しが葵に向けられた。握られた指先が一度離れ、しっかりと繋ぎなおされる。
「ゼン様・・・」
葵は小さく頷くと、ゼンとともに玉座の間をあとにした。
まだ昼にもならない明るい王宮内を歩き、庭園を横目に見ながら二人は歩いてゆく。
一歩先を歩いていた葵の隣に並んだゼンは彼女の腰を抱き寄せて葵の髪に頬を寄せる。腰に添えられた手に手を重ね、戸惑いながらも葵はゼンに微笑みを向けた。
その時・・・
「な・・・ぜ・・・・」
気を取り直して美しく飾った果実をトレイに乗せ運んでいた仙水は二人の仲睦まじい姿を見てしまった。
「葵・・・・」
ぎゅっと握られたトレイは音をたてて軋んだ。仙水の胸は強く握りしめられたように痛み、苦しく、切なげにその顔は歪む・・・
葵が自室の扉をあけてゼンを受け入れた。可愛らしく、清楚に整えられた葵の部屋はほのかに甘い香りが漂い、足を踏み入れたゼンはクスリと笑って目をほそめた。
「ようこそ、ゼン様」
「お前らしい部屋だな。色気はないが・・・優しさに満ちている」
色気がないと言われた葵は、顔を赤くして恥ずかしそうに俯いた。
「それでいいんだ葵・・・これから俺がお前の色気を引き出してやる」
ゼンに誘うような眼差しを向けられ、その手が頬から顎へと滑る。
はっと身構えた葵は、少し前のゼンの言葉を思い出した。
『俺はお前とこうしている時に幸せを感じる』
その時のゼンの穏やかな瞳はとても優しく、幸福に満ちていた。
(これがゼン様の幸せ・・・なら私は・・・)
顔を近づけられて葵は目を閉じた。驚いたように目を見開くゼンは・・・
「葵、ありがとう・・・」
自らの意志で自分を受け入れてくれた葵に愛しさが込み上げ、全身でその体を抱きしめた。そして、熱をあげた唇で葵の唇を強く強く吸った。
―――――・・・
王宮へと戻ってきた蒼牙と大和はきょろきょろと葵の姿を探していた。
「中庭には・・・いねぇみたいだな。部屋か?」
大和は庭の中を移動して葵の部屋が見える場所へまで来ていた。
「・・・っ!!」
葵の部屋を見上げると・・・
窓の傍でゼンが葵に口付けしている姿がみえた。