addict-4
カタ。
小さく物音がした。和子は勢い良く振り返った。
「!」
そこには、鞄の持ち主が立って、和子を見つめていた。
綺麗な瞳が和子を射る。
和子は卒倒しそうになった。こんな状況に陥ったのは当然初めてなので、どうするべきかなんて全く分からない。
嫌われる。変な奴だと思われる。そうなったらもう自分は生きていけない。
「…あ、あの…あたし…」
言い訳がましく動く口。
自分のことがひどく情けなく、みじめに思えた。
「…君、百瀬さん、だよね?」
聡が尋ねる。妙なのは、その目から楽しんでいるかのような様子が窺えることだ。
「あ、はい…あの……」
「へぇ…」
聡の瞳が和子の爪先から頭のてっぺんまで値踏みするかのごとく動いた。
何かがおかしい、と和子は思った。
聡はゆっくりと教室に足を踏み入れる。そして眼鏡をとった。
その姿は、初めて見た。しかし全く違和感は無く、いつもより更に魅力的だった。
聡が妖しい笑みを浮かべた。
「…君って、僕の事好きだったんだ…?」
いつもの聡は、ここにはいなかった。
和子は頭が上手く回らず、状況が呑み込めなかった。
何かしなくては、何か言わなくては、と焦るが、それらは頭の中でまとまらない。
体が硬直してしまい、足に根が生えた様にその場に突っ立っていた。
そうこうしているうちに、一歩、また一歩とゆっくり聡は近付いて来た。
そして、和子の目の前に立った。
小柄な和子を見下ろす形で、端正なその顔に、先ほどからの艶めかしい笑みを浮かべたまま。
和子はその顔を見つめて、目眩を覚えた。
近い。近すぎる。ずっと、見つめたくて触れたかった。
その人が、今ここにいる。
―だけど、やっぱり変だ。いつもと様子が違いすぎる。
これは本当に先輩?この表情は何だと言うの?
そのとき聡が思いも寄らぬ言葉を発した。
「君の望む物をくれてやろうか…」
「…え?」
和子は思わず聞き返す。
すると聡は和子の耳元に口を寄せ、ゆっくり囁いた。
「僕が欲しいんだろう?顔にそう書いてあるよ」
え…今、なんて…
和子がまた困惑の色を示し、口を開きかけたその隙に、聡は和子に唇を重ねた。
大きな目を更に大きく見開く和子。
目をつむる聡の顔が、鼻先にある。
な…んなの?これは…!?
訳が分からず混乱し、聡の胸あたりを力いっぱい手で押してみる。
―が、びくともしない。
顔を横に向け、キスから逃れようとすると聡が、左手で和子の顎を前に向かせ、右手で腰を引き寄せて拘束した。