恋に変わるとき-9
「お前は、男が勃たない理由はそれしかないって思ってる?」
「……それ以外何があんのよ」
ジロリと冷たい視線を向けてやると、彼はバツが悪そうに苦笑いになる。
「……カッコ悪すぎてこんなこと言いたかねえんだけどさ、……緊張し過ぎて勃たなかったんだ」
さっきから眉間に入り過ぎてた力が、その言葉でふわんと緩み、間抜け顔になる。
緊張? コイツが? 超がつくほどの女ったらしなのに?
疑問符だけが頭の中で渦巻いて、思考回路が一気にストップしてしまった。
「俺だって、ホントはあのまま最後まで抱くつもりだったよ。
セックスに対してあれだけ怖がってたお前が、目ウルウルさせて“抱いて”なんて言うもんだから、もう自分が抑えられなかった。
お前のこと全部、俺のものにしたかった……のに」
真っ赤な顔は、いつもと違って余裕がないように見えるから、なんだかあたしまで真っ赤になって身体中が火照りだした。
「……あたしが処女だから、緊張したの?」
「ちげえ、処女とヤったことなんて何度もある」
そう言うと、彼はあたしからそっと身体を離してソファーに歩いていった。
そしてドカッと身体を沈めてから、煙草をくわえるとライターをカチカチ動かし始めた。
でも、なかなか点かないライター。彼の余裕のなさがライターにまで乗り移っているようだった。
処女の子とセックスしたことあるのなら、処女の扱いだって慣れてるはず。
やっぱり臼井陽介が反応しなかった理由がわからなくて、あたしは再び疑問を口にした。
「じゃあ何で……」
ようやく煙草に火が点いて、ふわっと紫煙と香りが広がってから、彼は低い声で答えた。
「……お前だからだよ」
「は? 何で?」
素っ頓狂な声を出したあたしをジロッと見ると、彼はやけくそにでもなったのか、部屋中に響き渡るようなデカイ声で、
「お前にマジになっちまったから緊張しちまったんだよ!
あんまり何で何で訊くんじゃねえ、このバカ女」
と、叫んだ。