お嫁さんはどっち?-4
「い、いや……なんでもない」
出来るだけ見ないようにと視線をずらすと――
「んな――っ!?」
「あ゛〜やっぱ勉強は疲れるなぁ〜」
彩花が胸元をパタパタと動かして服の中に風を送り込んでいた。
風を送り込むために胸元をパタパタと動かすと、チラチラと彩花の健康的な鎖骨が視界に入ってくる。もう少し顔を近づければ完全に胸を見ることが出来るだろう。
右を見ても左を見ても刺激的な光景がある。こんなの、全然休憩出来ない。二人の胸の感触という直接的なのはなくなったが、視覚に訴えかけてくる刺激的な光景は心臓に悪い。
これでは、バカみたいに真っ直ぐを見ているか、目を瞑るしかない。
「りっくん、どうしたの? 表情が固いけど」
「しかもずっと真っ直ぐばかり見てるけど、何か面白い物でもあるのか?」
俺の視線に二人が不審がる。だからといって、本当のことを言うわけにはいかない。
年上として、年下の女の子にドキドキしているなんてバレたくはないからな。
そんな俺の邪な考えを見抜いたように――
「りっくん、もしかして……」「もしかして陸……」
「ふ、二人ともその顔はなんだよ?」
ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべやがって。言いたいことがあるのならハッキリと言えよ。
「りっくん。見たいなら見たいって言っていいんだよ? りっくんが見たいのなら、私はいつでも見せてあげますよ」
「なんだよ陸。あたしの魅力に興奮してたのかよ」
余裕でバレていましたとさ。だからといって、わざわざ認める必要はない。嘘でも違うと言い張らなければ俺の威厳がなくなってしまう。
「そんなことあるわけがないだろ。ただあそこに変な染みのようなモノが見えてだな」
怖がらせるようなことを言って誤魔化してみる。霊感なんてサッパリだが、話題を逸らすためには幽霊系の話題が一番だろ。
「し、染みって……嘘だろ?」
「そ、そそ、そんなことあるわけがないですよね? この家に幽霊がいるだなんて……」
予想外なことに幽霊に怯えている二人。まさかこんなにも幽霊を怖がるとは思わなかった。
「りっくん……」
「陸……」
ぎゅぅ……としがみ付いてくる二人。勉強会の時よりも強くしがみ付いてくる。そのせいでより一層二人の胸が俺の腕に当たる。
ぐにゅっと胸の形が変わるほどに胸を腕に押し付けて――しがみついてくる。
「陸、怖い。幽霊怖いよ」
「りっくん。りっくん……」
ブルブルと恐怖で震える二人。今更、実は嘘なんですとは言いにくい空気だな。しかし本当のことを言わないと二人が安心出来ないし。
はぁ……余計なことを言うんじゃなかった。
「大丈夫。今の話は嘘だから。変な染みなんて全然見えないよ」
「ほ、ほんと……?」
「嘘じゃないですよね?」
「ああ。嘘じゃないよ。変なことを言ってごめんな」
きちんと二人に頭を下げて謝る。これで嘘だというのを信じてくれればいいのだが。
「な、何で嘘なんか吐いたのですか?」
「そうだよ。何でわざわざ嘘なんか吐いたんだよ!」
当然の質問。嘘を吐いたことを言えば、この質問は当たり前のようにやってくるよな。
「……言わないとダメか?」
無理だと知りつつも一応聞いてみる。限りなくゼロでも聞くまではゼロじゃないから。
「ダメに決まっています」
「そうだ、そうだ。あたし達に怖い思いをさせたんだから、説明する責任があるだろ!」
「うぐぐ……」
かなり嫌なのだが、説明をするしかないよな。あぁ、俺の威厳がなくなっていく。
「彩菜と彩花が……」
「私と?」「あたしが?」
「休憩だからって変に気を抜いて楽な体勢を取るから、色々なモノが見えそうになって、それで出来るだけ見ないようにって……」
自分の顔が赤くなっていくのが分かる。ほんと何恥ずかしいことを言っているのだろうか。
「二人の姿にドキドキしまして、理性とか色々なモノが……」
後半は聞こえるか聞こえないかのような小さな声になってしまった。
「私達の姿に興奮して……」
「男として理性が危なくなってきたと……」
「仰る通りで」
自分の気持ちを説明するのがこんなにも恥ずかしいとは思わなかった。
喜怒哀楽を説明するのならそこまで恥ずかしくはないのだろうが、自身の下心を説明するのはかなり恥ずかしいものがある。
「ほんと、りっくんは素直じゃないですね」
「別に恥ずかしがることなんてないのにな」
二人は男心を分かってない。男はこういうしょうもないことでも、意地を張ってしまうんだよ。
「あのねりっくん。そんなにも女の子の身体に興味があるのでしたら……」
彩菜がニンマリと口元を吊り上げる。
「見てみます?」
とても魅力的な提案。二人の身体に興味がないと言えば嘘になる。