『SWING UP!!』第8話-26
そのとき、雄太はひどい振られ方をした。未成年にもかかわらず、自棄酒をあおって、泥酔してしまうくらいの、ひどい振られ方だった。
そして雄太は泥酔したまま、彼を心配して部屋にやってきた品子を押し倒してしまった。つまり、気持ちを通わせる前に、雄太は品子の純潔を無理やり奪ってしまったのである。それも、酔った勢いで…。
例え幼馴染だったとしても、それは許されない行為だ。我に返った雄太の自己嫌悪は、まさに最悪なものだった。品子の体を蹂躙し、壟断している自分の姿をはっきりと覚えていて、そして、焦点を失っている品子の瞳の暗さもまた、彼の脳裏には焼きついていた。
雄太は本当に自分が許せなかった。だから、品子と一緒に進学の決まっていた双葉大学への入学を取りやめて、家も出て、彼女の前から完全に消えてしまおうと、本気で考えていた。
それを察して止めたのは、結果として雄太に陵辱されたはずの品子だった。
彼女はいつもと変わらぬ優しい表情で、
『悪いのは、私』
と、微笑さえ浮かべて、抱きしめてくれたのだ。
雄太は泣いた。品子の献身に今まで気がつかなかった愚かな自分が、恨めしかった。
『品子、その……俺と、つきあってくれないか?』
雄太は、“虫の良い最低野郎”だと罵られようが、“浅ましいゲス人間”だと蔑まれようが、何を言われても構わない覚悟で、品子に交際を申し込んだ。
『うん』
品子の返事は、とても簡単なものだった。嬉しそうな微笑さえ浮かべて…。
それがとても、雄太には信じられない出来事に思えて、
『えっと……幼馴染として、じゃなくて、男と女として、だぞ?』
と、格好悪くも聞きなおしてしまった。頭を抱えそうなぐらいに本当に格好悪かった、と、雄太は実際に頭を抱えて思い出すときがある。
『つまり、こういう関係でしょ?』
と、品子が唇を重ねてきた瞬間、雄太は完全に彼女の虜になってしまっていた。
どうして今まで彼女のことを放っておいたのか。もし過去の自分に逢えるのだとしたら、本気の本気で、顔の形が変わるくらいにぶん殴ってやりたいと雄太は思った。
以来、お調子者ゆえに、それで品子を怒らせてしまう事は多々あったが、雄太はもう、他の女性は全く見えなくなった。品子一筋であり、そういう意味では完全に自分の主導権を、彼女に預けていた。