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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第8話-21


「FANTASTIC!!」
 エレナの喜色満面な労いを受けながら、ベンチに戻ってきた桜子と大和。
 二人はそのまま、それが定められた位置であるかのように、隣りあって腰を落ち着けた。
「大和」
「?」
「あの球、最高の手応えだよ。ドキドキが、とまんない…」
 そして桜子は、自分のミットを高く鮮やかに鳴らし続けた、そのストレートの感触を、恍惚としながら反芻していた。
 浮き上がってくるような軌跡を描き、相手を仰け反らせてしまうその球威。2部リーグ決勝戦の時よりも、さらに洗練された彗星のような球筋。
「あの球が、大和にとっての“最高の球”なんだよね」
 捜し求めていた宝物を手にしたかのように、桜子の瞳が輝いていた。
「あれが、大和の持っていた本当のボール…」
 桜子は、肘の故障によって失われていた大和の輝きが、とうとう往時のそれに戻ったのだという実感があった。彼が強く期していた“復活”が、ついに果たされたのだと、我がことのようにうれしく思った。
「違うよ、桜子」
「え?」
 しかし大和は、別の感慨を持っていた。だからそれを、真っ先に桜子に伝えたいと思った。
「あの球は、僕が初めから持っていたものじゃない。桜子やみんなに支えられて、新しく生まれてきたものだよ」
 桜子との出会いから始まって、彼女を中心とした周囲の人間との絆を介して、自分の右腕に宿ってくれた新しい力…。
「“スパイラル・ストライク”は、みんながくれた力の結晶なんだ。僕は心の底から、そう思ってる」
「“スパイラル・ストライク”…それが、あの“最高の球”の名前なんだね」
 挫折を乗り越えた先に手に入れた、かけがえのないもの。それを、“みんなのくれた力の結晶”と言う大和の心が、桜子にはとても尊いものに思えた。
「大事にしないといけないね」
「ああ」
 桜子もまた、心の底からそう思った。
 “スパイラル・ストライク”が、大和のウィニングショットであるのなら、それを最大限に活かすための配球をこれからは考えなければならない。内角高めで相手を牛耳るには、内外上下に幅を広げた球の配列によって、相手の目線を拡散させる必要があるのだ。
 そして、それを担うのは、マスクを被る桜子である。
「頼んだよ、桜子」
「うん。わかったよ、大和」
 揺るぎのない信頼があるからこそ、“スパイラル・ストライク”の全てを委ねることができる。
 二人は今、本当の意味で“バッテリー”になったのだ。
「アウト!!! チェンジ!」
 この回もまた、強い当たりが安打に結びつかなかった。双葉大の7回裏のスコアボードには“0”の数字が掲示される。
「いこう、大和!」
「ああ、いこう!」
 無得点に終わったことなど意に介する様子もなく、ベンチを蹴るような勢いで、バッテリーはグラウンドへ駆け出していた。



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