『SWING UP!!』第8話-16
初回の攻防が終了し、その後の推移は以下のようになっていた。
享和大|000|
双葉大|400|
2部リーグの決勝戦とは全く異なり、双葉大学は4点のリードを奪って序盤の攻撃を終えていた。
振り返るような形になるが、初回について補則をする。
双葉大の1回裏の攻撃は、雄太の先制適時打と、大和の2点本塁打で奪取した3点だけでは終わらなかった。
敬遠で出塁した桜子を、6番・若狭の進塁打で二塁に進め、7番・浦が内野安打で出塁し、ツーウアウトながら一・三塁の好機となった。
そこで打席に入ったのは8番・品子だった。
犠打や進塁打は何度か決めてきた彼女だが、打率は相変わらず“.000”を継続中…。享和大にとっては、よほどのことがなければ、ようやくここでチェンジを奪えるはずだったのだろうが…。
コキンッ!
「おっ!?」
そうは、いかなかった。
フルカウントまで何とか粘った彼女は、外角低めに投じられたカーブに、泳ぎながらもそれをバットにかろうじて当てた。そして、フラフラと宙を舞ったその打球はなんと、一塁手と二塁手と右翼手の中間地点にポトリと落ちたのだ。
絵に書いたような“ポテン・ヒット”である。そして、ツーアウトだったので、打ちあがった瞬間に走塁を始めた桜子は、悠々とホームを踏んでいた。
つまり品子は“適時安打”を放ったのである。
「品子、やった! やりやがった!!」
ベンチで一番の喜声を挙げていたのは、雄太だった。なにしろ、彼女にとっての公式戦での人生初安打が、この大一番で出たのである。これで喜ぶなというのが、無理な話だ。
「私、打った…打てた……」
一塁ベースに滑り込んでいた品子は、それがとても信じられないことのように呆然としていた。
「打てた……打てたよ、雄太……」
しかし、現実が彼女を我に返したとき、瞳から溢れてくるものを抑えることが出来なかった。
自分自身に、およそ運動神経というものがないことは自覚してきた。雄太を助けるべく、大学に入ってから選手として試合に臨むようにはなったが、それはあくまでチーム割れをしないための措置であって、実力でレギュラーを掴んだわけではない。実際、攻守に足を引っ張る機会がどうしても多く、品子は、雄太に迷惑をかけてしまう自分のふがいなさに何度も唇を噛んできた。
それでも雄太は、品子の練習に付き合い、諦めることなく指導を続けてくれた。品子自身がめげそうになって、つい諦めの気持ちが口をついてしまったときは、それを厳しく優しく窘めてくれた。
出会ったばかりの幼い頃のように、二人でいっしょに汗と土に塗れる時間を過ごしてきた。その結果が、ようやくにして実を結び、彼女に1安打を記録させたばかりか、1打点というこの上ない奇蹟を添えてくれたのである。
品子の安打によって獲得した4点目。
初回に記録されたものだったので、その時は単なる“4点目”としか映らなかったが、この試合においてそれは、とてつもなく大きな“意味”を持つものだった。