『SWING UP!!』第８話-12
そして、この日がやってきた。
「さあ、みなさん。いよいよですね」
入れ替え戦が行われるのは、城央市営野球場である。各大学のグラウンドでこれまで戦ってきた２部リーグでの試合とは違い、正真正銘の野球場で試合が出来るのだ。
「やっぱり野球は、球場でやらなきゃな」
いつぞやと同じように、雄太が言う。
「これからも球場で目いっぱい野球が出来るように、今日は勝つぞ！」
「「「応！」」」
雄太の檄に応えるメンバーの力強さは、昨年には感じなかったものだ。チームとして成長し、成熟してきた証である。
「Ｄｏ ｙｏｕｒ ｂｅｓｔ！ Ｌｅｔ’ ｅｎｊｏｙ！！」
「「「Ｓｉｒ！」」」
監督であるエレナの励声を背に受けて、双葉大学軟式野球部のメンバーはベンチを駆け出し、フィールドに散っていった。今回の享和大学との試合は、コイントスにより、後攻めを選択していた。
スターティングオーダーは、以下のとおりである。
１番・遊撃手：岡崎 衛 （背番号 ５）
２番・中堅手：栄村 順三（背番号 ９）
３番・投 手：屋久杉雄太（背番号１３）
４番・三塁手：草薙 大和（背番号 １）
５番・捕 手：蓬莱 桜子（背番号２７）
６番・一塁手：若狭 嘉徳（背番号１０）
７番・左翼手： 浦 健介（背番号 ７）
８番・右翼手：本間 品子（背番号１４）
９番・二塁手：吉川 弘治（背番号 ２）
２部リーグでの戦いと同じ構成であった。ちなみに背番号は、１−３０までの数字であれば自由に選択できるようになっている。守備位置を表す番号をそのまま選択する者もいれば、思い入れのある数字を背負う者もいた。
「………」
マウンドに立つのは、背番号１３を背にする雄太である。彼が選んでいるその番号は、幼少の頃からのファンでもある名古屋ドルフィンズの左腕クローザー・岩沖にあやかったものだ。
（やってやるぜ）
２部リーグの決勝戦では、序盤に打ち込まれてしまったこともあり、期するものを持ってこのマウンドに臨んでいる。いつもとは違う、濃い色をした盛り土のマウンドに立つや、その感触を何度も確かめながら、踏み込む位置の足場を馴らしていた。
「桜子」
「はい」
投球練習が終わり、バッテリーを組む桜子との打ち合わせに入る。彼はこの試合で、決意していたことがあった。
「今日のリードは、全部お前に任せた」
「えっ、いいんですか？」
「投げることに集中したいんでな」
「………」
これまでは主に、無走者の場合は桜子が、走者が出た時点では雄太が、それぞれの配球を主導してきた。
しかし、決戦ともいえるこの試合において、雄太は桜子に、配球における全ての判断を任せるという。それはつまり、桜子のリードに全幅の信頼を寄せて、自身の投球に専念するということだ。
「わかりました。任せてください」
双肩に重圧を受けても、桜子には揺らいだ様子が見えなかった。彼女の肝っ玉も、相当に据わっている。
「よっしゃ！ 気合入れていくか！！」
「はい！」
桜子がマウンドから降りて捕手の定位置に向かう。
「バッターラップ！」
主審がそれを確認して、先攻めとなる享和大学の１番打者に、打席に入るように促した。
「プレイボール！！」
主審の右手が高々と上がり、試合開始が宣言された。