寂しい距離感U-1
秀悠は神官たちを羨ましく思いながら、その近すぎる距離を不憫にさえ思えてきた。
「そうだな・・・
今までそういう事は互いに触れてなかった。あいつが・・・、ゼンが来てから何かが動き始めたんだ」
「ゼン?って・・・雷帝ゼン様のことですか?」
目を丸くして秀悠は蒼牙をみた。秀悠のように田舎に住んでいるものは断片的なことしか伝わってこないため、王と雷帝の繋がりもわからないのだ。
「・・・もういい、蒼牙いくぞ」
大和はそれだけを言い残すと二人に背を向けて歩き出した。
大和の背を追いかけようとした蒼牙は振り返って秀悠をみた。
「人間だからって引け目を感じることはないと思うぜ。葵はそんなこと気にしちゃいねぇ」
「え・・・」
戸惑うように蒼牙を見返す秀悠。
「葵はそんなこと気にするやつじゃねぇんだ。気にしてるのはあんたとか、あの曄子っていう女のほうだ」
それだけを言い残すと蒼牙は走り出した。理由はわかったが、このぎくしゃくした関係を修復しようにも解決方法がわからない。
「こんなときにゼンのおっさん来てねぇといいな・・・」
ぼやいた蒼牙は、すでにゼンが葵の元にいるとも知らずに王宮へと向かった。
―――――・・・
「・・・・」
九条は星見の間に入り、昼間でも夜の空をのぞける静かな部屋の中にいた。
「自ら望んで神官になったというのに・・・」
九条の脳裏では何を気にすることもなく、葵に愛を囁く・・・あの日のゼンの姿があった。
『九条さん・・・葵さんが誰かのものになるのが怖いんですか?』
秀悠の言葉が胸に突き刺さる。
「愛さえ伝えられぬ私には・・・怖いものばかりだよ」
切なく呟かれたこの九条の言葉は、これから彼が抱えていく大きな悩みとなる。
――――・・・
彼の胸の中でしばらく目を閉じていた葵は、顔をあげると優しいゼンの瞳とであった。
「今夜はお前の傍にいたい」
ゼンに頬をなでられ、葵は背筋を伸ばした。
「あ、ありがとうございます・・・なら、お部屋を用意しますね」
立ちあがろうとする葵の腕を引き、ゼンは神剣な眼差しをむけた。
「お前の部屋に案内してくれないか?」