寂しい距離感T-1
「本当は・・・あんなことを言いたかったんじゃないんです。私の気持ちを聞いてくれるだけで良かった・・・」
肩を落として後悔の眼差しを向ける秀悠の横顔は寂しそうだった。
「ですが・・・叶わないとわかっているこの想いの次に、私は彼女の幸せを願いました」
「・・・・」
切なさを含んだ秀悠の言葉に大和は自分自身を重ねていた。
「深い愛をもつ王に向かって、人としての幸せを、と口にしまったんです・・・。
九条さんに怒られてしまいました」
ははっと笑う秀悠に顔を向けた大和は、気になっていた葵の様子を秀悠にたずねた。
「それで・・・葵はなんと?」
「葵さんは・・・最初は戸惑っておりましたが、最後にはありがとう、と。そして九条さんや仙水さん、蒼牙さんたちの姿をみて・・・ひどく傷ついたような顔をされていました」
はっとした蒼牙は声をあげた。
「葵・・・もしかして・・・」
苦しそうに目を閉じた大和は辛そうに言葉を発した。
「おそらく・・・そうだろうな。
自分の幸せについて考えたんじゃない。俺達の幸せについて考えたんだ・・・」
「ばかやろうっ!!
余計な気まわしやがって!!」
拳を握りしめて蒼牙は強く木を殴りつけた。葵の優しさを考えればすぐにわかったことだった・・・
辛そうにしている大和や蒼牙をみて秀悠が言った。
「九条さんや仙水さんを見て思いましたが・・・貴方たちも葵さんを愛していらっしゃるのですね」
ピクっと肩を動かした大和は無言のまま視線を下げた。蒼牙はその動きを見逃さなかった。
「愛してるさ。
俺達はあいつのために存在して、あいつだけを想ってる。それ以上でもそれ以下でもない」
「はは、九条さんも同じようなことを言っていた。神官の愛は唯一無二の我が王に・・・と」
蒼牙はため息をつき、九条のその姿を思い浮かべていた。
「九条はわかりやすいんだよ・・・そして、お前もな・・・大和」
驚いたように秀悠が大和へと視線をむけた。今更に気付いたが、紫色の長い髪を高く結ったこの青年の見目は息をのむほどの美しさだった。そして腰には美しい刀を差し、品の良い着物を見事に着こなしている。
「愛する人が目の前にいるのに、想いを口に出来ないのは苦しいですね・・・」