『SWING UP!!』第７話-7
９番打者は吉川である。
送りバントの結果とはいえ、ようやくアウトをひとつ取ることができた相手バッテリーは、やや落ち着いた雰囲気があった。
「ストイライク！」
「ボール！」
「ボール！！」
「ストライク！！」
だから吉川は、慎重にボールの球筋を追いかけた。ここで一番注意をしなければならないのは、打ち気に逸って凡フライを挙げてしまうことである。
二塁と三塁に走者がいる今、ベースタッチによる封殺はない。打球を転がしさえすれば、ホームに投げるか一塁に投げるか、相手野手は判断力が必要とされるし、それによって何らかのミスが発生することもありうる。
まだ一死である今、それがそのまま得点に繋がる可能性を秘めているのだ。
キンッ！
「おぉっ！」
その意識が、逆に吉川のスイングを鋭いものにした。
かつて触れたように、高校時代にテニス部に所属していた彼は、持ち前のフットワークの良さに加えて、非力ではあるがミート力に優れていた。
そして、左打席に入っている彼は、テニスのバックハンドを思わせるような右腕の動きによって、ミートした打球をセンターに向けて綺麗に打ち放ったのだ。
打球はそのまま、センター前に抜けていった。
「ＧＯＯＤ ＪＯＢ！！」
ぱちぱちぱち、とエレナの拍手が響き渡る。吉川の“ガンバッタ賞（ほっぺたのキッス）”はこれで確定した。
その拍手を浴びながら、三塁走者の若狭はこれまた悠々とホームに生還。３点目が記録される中、走力のある浦も三塁では止まらずに、本塁を目指して疾駆していた。
「！？」
さすがにここはクロスプレーになった。それでも、トップスピードから敢行された浦の鋭いスライディングが、相手捕手のタッチよりもすばやくホームベースを掠め取り…、
「セーフ、セーフ！ ホームイン！」
そして、４点目を奪い取った。電撃的に、１点差まで詰め寄ったのである。
（吉川、ナイスミートだ。さすがだな）
次の打者は、１番の岡崎であった。吉川とは二遊間を形成するだけあって、彼にはひとかた気をかけている。
（皆がつないだ好機…。無駄にはしない）
最初の打席は、あまりに甘い球が初球に来たこともあり、思わず手が出て凡打になってしまった。１番打者として反省すべき不手際であり、この打席にかける彼の思いは強い。
さらに、下位打線が奮起して繋げてくれた好機なのだ。昨年までの、自分や雄太に引っ張られるだけのチームではなくなっていることが、岡崎にはとても嬉しかった。
（本当の意味で“チーム”になった証だからな）
だからこそ、１部リーグの昇格を目指すみんなの夢を、ここで終わるわけには行かない。
「………」
２打席目を迎えた岡崎の気迫。静かでありながら、激しい業火の昂ぶりを見せるその気迫に、相手バッテリーは完全に呑まれた。
「！！」
その結果、初球のストレートが内側に甘く入ってきた瞬間、第１打席での失敗を繰り返すことなくそれを鋭いスイングで打ち放った岡崎の打球は、凄まじい弾丸ライナーとなって本塁打を示すネットを越え、留まることもなくその更に向こう側へと飛んでいった。