魔王討伐史-21
「長い距離を歩いてお腹も空いてるし、さっさと食べよ〜」
「おう、そうだな。歩きすぎて腹が減ってるもんな」
「ええ。歩きすぎましたからね」
三人共、歩き過ぎたということを主張している。そんなにも三人にとっては、魔物と戦
ったことは記憶に残っていないのですか?
「勇ちゃん、どうかしたの? 早く食べないと冷めちゃうよ〜?」
「あ、はい。いただきます!」
魔法使いさんから手渡された料理に箸を伸ばす。
「……美味しい」
「うん、勇ちゃんの口に合ってよかったよ〜♪」
お世辞抜きで魔法使いさんが作った料理は美味しかった。見た目としては豪華な感じは
しないのに、味は何処かの料理屋のフルコースを食べているかのような錯覚を覚えるほどだ。
こんな美味しい料理を食べたのは、何気に初めてかもしれない。
「たくさんあるから、じゃんじゃん食べてね〜♪」
「あ、はい。ありがとうございます!」
「僧侶。おかわり!」
「はぁ……少しは自分で料理を取ってくださいよ」
「いいじゃんか。僧侶が一番近いんだから」
「あなたと、そう変わらない距離だと思いますけどね……」
「にははっ♪ 僧侶ちゃん、わたしもおかわり♪」
「……あなたまで」
「「「「はははっ♪」」」」
楽しい雰囲気での食事。美味しい料理に楽しい会話。場所は外と、よくない環境だけど
それ以外は実に最高だ。
なんというか、初めてこの人達と冒険をしててよかったと思ってるかもしれない。
――そんな風に楽しい食事も終わり後は寝るだけとなったんだけど、僕は一人外の風に
当たっていた。近くに湖があり、三人は食後の水浴びをしているのだ。
一緒に水浴びをしないかと誘われたけど、それは丁重にお断りをした。少し自分一人の
時間が欲しかったというのもあるけど、一番はあの三人と全裸でいたら何をされるか分か
らないという恐怖だ。
全裸で同じ空間にいたら、絶対に襲われてしまう。性欲が有り余っている三人に一斉に
襲われてしまったら僕の身が持たない。
こんな魔物が居るかもしれない外で一人待っているのは怖いけど、あの三人と全裸で一
緒に居るよりはマシだと判断して今に至るわけである。
「さすがにここで魔物に襲われるとかいう展開はない、よね?」
いくらなんでも、そんな三流のお笑いみたいな展開は――
「あら、何かこんな所に人間が居るわね。これは襲われても文句は言えないわよね?」
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? 言った側からこの展開だよ!
何、このフラグを立てたからすぐに回収をしに来ましたよ、みたいな展開は!
僕はこんな展開なんか全然望んでいないっていうのに、僕一人でこの魔物と戦わないと
いけないの!? 誰の助けもなく一人で――
「こんな所に一人で居るあんたが悪いのよ?」
ジリジリと近づいてくる魔物。やけに肌の露出の多い魔物に、つい目を逸らしてしまう。
「あらあら、目を逸らしちゃって、そんなにもアタシ格好を見るのが恥ずかしいのかしら?」
大きな胸とお尻を扇情的に揺らしながら挑発をしてくる。
う、うぅ……今から三人に助けを求める時間なんてないし、ここはやはり僕が一人でど
うにかしないといけないみたいだ。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
うぐ……っ、だけどあの魔物の身体は正直ズルい。あんなにもエッチな身体を見せられ
て冷静に戦うなんて難しいよ。と、いうより女形の魔物と戦うのはその……少し気が引ける。
こういう時、あの三人なら容赦なく倒すんだろうけど、僕にはそれが出来ない。
かと言って、このまま魔物に嬲り殺されるわけにもいかない。僕には魔王を倒すという
使命にも似た王様の命令があるのだから。
「ふふ……♪ 震える身体で武器を取っちゃって可愛い♪」
「ぐ……っ」
ここにきて、一度も戦闘をさせてもらえなかったツケがきている。戦いの稽古も特訓も
してきていない僕にこの魔物を倒すことが出来るのだろうか?
いや、倒すまではいかなくとも、せめて退けることが出来たら……
「そんなにも怯えなくてもいいわよ。別にあんたを殺そうとか考えてるわけじゃないから」
「え……?」
「アタシは人間を殺すような趣味はないのよね。まぁ、必要に駆られたら殺すけどね♪」
「じゃ、じゃあ……このまま見逃して――」
「それは無理よ♪」
デスヨネー。現実はそんなに甘くないですよねー。
「まぁ、そういうわけだからあんたは大人しくアタシに犯されてればいいのよ」
「あなたに犯され……えっ!?」
ちょっ、ぼ、僕魔物に犯されちゃうの!? 確かにこの魔物は女形で綺麗な人? だけ
ど、さすがに魔物に犯されるのは勇者としてちょっと……
「せっかくの獲物なんだから、逃がしはしないからね♪」
「あわわわわ……」
「あんたの精液。限界までいただくわよ♪」
連日、三人の誰かに精液を限界まで搾り取られているというのに、ここにきて魔物にま
で精液を搾り取られるというのか?
む、無理だって。魔物は人間と体力のスペックが違いすぎる。人間の何倍も体力のある
魔物に犯されたら確実に死んでしまう。あの三人相手でも、かなりギリギリの所なのに、
魔物に限界まで犯されるのは……