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ガラス細工の青い春
【純愛 恋愛小説】

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-4

 午後は決勝トーナメントが行われた。清香が参加している女子バスケチームは決勝に進出し、清香としてはこれほど面倒な事はないと頭を抱える事態だった。決勝となればギャラリーが増える。目立つ事は嫌いだ。なるべくならボールに触れたくないと思ってしまう。
 準決勝が行われている空き時間に、隣のコートの試合を見る為に二階席に上がると、咲達三人に出くわした。
「何やってんの?」
「あ、清香。決勝出るんでしょ? 応援行くからね、清水先輩が負けたら」
 咲にとって清香の応援は、清水先輩の応援の「ついで」でしかないという事は明白で、「はいはい」と軽口叩いて苦笑する外ない。咲の視線の先にはパス回しをする清水先輩が動いている。そのまま周囲に目をやると、見知った顔が揃っている。清水先輩のクラスと、清香のクラスの準決勝だ。
「咲、どっち応援すんの」
 清香は大凡分かりきった質問を咲にぶつけてみると、当たり前のように「清水先輩」と返ってくる。
 ひんやりとした鉄柵に掴まってコートを見る。圭司は肌の色が白い。浅黒い優斗と並ぶと対照的だ。優斗の視線が清香達を捉えたようで、こちらに手が振られる。清香が「ちゃんとやれー」と優斗に声を掛けると、留美と幸恵もそれに追随する。何と無しに視線を圭司にやると、偶然にも目線がかち合ってしまい心臓がドキンと一度だけ跳ねる。自分の身体の事ながらその瞬発力に驚愕する。
 試合中「清水先輩ー!!」と大声で叫んでいるのは咲だけで、先輩のクラスの女子生徒から、視線が痛いほど飛んできた。きっと清水先輩はクラスでも人気があるのだろう。必ずしも好奇の視線だけではない事が分かる。清香も留美も幸恵も、咲から一歩ずつ離れた。
 試合は一進一退の攻防戦となり、なかなかの見応えだった。圭司と優斗はやはり運動神経が良いのだろう、得点源となってネットを揺らしていた。鈴木君は殆どボールに触れる事なく、残る四人でパスを回している。清香としてはバドミントン以外のスポーツをしている鈴木君も見てみたかった。しかし結局男子は準決勝で負け、清水先輩のクラスがそのまま決勝戦で勝ち、優勝した。決勝戦を行っている清香の耳に、咲のつんざくような黄色い声が届いた。
 清香は決勝に出場するも、やる気満々の相手チームとは違って得点源の清香がやる気を見せないので、点は入るものの相手に追いつく事はできず、準優勝で幕を閉じた。

 試合を終え、教室に戻る途中、背後からぞろぞろと男子四人が歩いてきた。本来なら男子決勝の審判をしなければならなかったのに、鈴木君に押し付けて、清香が出場していた試合を見ていたらしい。
「お前、本気でやんないのな、ほんと」
「だってこの後部活もあるし、疲れるじゃん」
 優斗にちらりと目をやると、頭を軽く叩かれ、思わず目を瞑る。「思考が黒過ぎ」と優斗は笑う。
「清香って真面目なのか不真面目なのか分かんないよなー何か」
 自分に向けられた声なのに、「清香」と呼ばれた名前を今一度咀嚼してからでないと飲み込めないその声の主は、圭司だった。また心臓が反応し、その事自体に狼狽える。
「至って真面目だよ、部活では、うん」
 清香のたどたどしい言葉を聞いてケタケタと笑う圭司の声に、清香も控えめに追従する。
「授業とかもさ、そんなに真面目に聞いてる感じじゃないのに勉強できるし、不思議だよな」
 自分の授業態度について圭司が把握しているとは思っていなかった清香は、少し驚いた顔で圭司を見た。
「何? ちゃんと授業聞いてるよ、失礼な」
「嘘つけ、しょっちゅう川辺と手紙まわしてんじゃん」
 言い逃れが出来ない事実を突きつけられ、ヘラリと笑ってみせる。そういう圭司なんて殆ど寝てるか、明後日の方を見ている事を、清香は知っている。そんな日常的な圭司の姿を、無意識で周辺視野に捉えてしまうからだ。


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