すれ違いT-1
ぼやく蒼牙は思い出すように窓の外を眺めた。
「ふたりに何があったかは九条に聞くしかないだろうが、あいつ・・・言わないだろうな・・・」
「・・・だな」
もともと葵としかまともにしゃべらない九条から、それを聞き出すことは至難の業だ。だからといって葵をそのままにすることは出来ない。
「その人間に話を聞くことは出来ないか?」
大和が蒼牙に提案すると、蒼牙は驚いたように大和を見つめた。
「冗談だろ・・・?仙水がブチギレた相手だぞ?お前だって何するか・・・」
「いや、女のほうじゃない。
葵は何か迷っているような瞳をしていた・・・人間の男のほうに何か言われたんじゃないか?」
「・・・なるほど」
大和と蒼牙は顔を見合わせ、小さく頷いた。
―――――・・・
「ん?誰もいないのか?」
王宮の門の前に立ってノックしても反応がないことにゼンは首を傾げていた。
そっと巨大な扉を押すと、ゼンに反応した扉は淡く輝き、彼を快く受け入れた。
「静かだな・・・」
いつも葵が座っている中庭の長椅子をみても彼女の姿はなかった。それどころか、いつも元気な蒼牙の声も聞こえてこない。
ゼンを嫌っているであろう九条や大和、見かけると笑いかけてくれる仙水の姿もない。
その時、噴水の音ではない水音が聞こえ・・・ゼンはその音がするほうへと歩いて行った。
薄く開いている一際立派な扉の前にくると、奥で葵が俯いている姿がみえた。
「・・・葵?」
その声に顔をあげた葵は、立ちあがってゼンの元へ走った。
「ゼン様・・・申し訳ありません、お迎えもせず・・・」
ゼンは一目で葵の様子がおかしいことに気が付いた。そっと葵の頬に手を添えて、顔を覗きこむ。
「・・・何があった?」
ゼンに問われ、葵は視線を逸らす。
「いえ・・・」
すると、ゼンの両手に顔を挟まれるようにして正面を向かされた。
「俺の前で俺以外のことを考えるのは感心しないな・・・それが王としての悩みなら、俺とお前は誰よりもわかり合えるはずだ」
そう言葉をつげるゼンの瞳は優しく、葵は抱えている悩みを少しずつ呟いていった。