生徒はお嬢様!?-6
「そんなことはないわよ。だって皆さん素敵な人達ばかりで、いつも助けてもらっているわ♪」
助けてもらっている――それは、彼女の人格のなせる業なのか、またか九条家の名前の
せいなのか……恐らく前者だろう。底抜けにバカで明るい性格。それ故に学校でも愛され
ているのだろう。
「とにかくお前の実力は判った。基礎から全て叩き込んでやる」
これは勉強の仕方以前の問題だ。基本から叩き込まないといけないな。
「彼方さん」
「ん、何だ?」
「先ほどからわたくしのことを『お前』と呼んでますけど、わたくし言いませんでしたか?
わたくしのことは『撫子』と呼んで欲しいと」
撫子が一瞬ギロリとキツイ視線で俺を見る。
「ん、名前で呼んでいなかったか?」
俺の中ではきちんと『撫子』と呼んでいたような気がしたんだけどな。
「呼んでません! ずっと『お前』って言ってましたー!」
「そ、そうか」
「そうです! 大体、わたくしにはちゃんとした名前があるというのに、その名前で呼ば
ないとは彼方さん、あなた様は少々礼儀がなってませんわよ! そんな礼儀のなっていな
い人に勉強を教えて欲しくはないわ!」
ここぞとばかりに俺に文句を言ってくる。きっと勉強をさせようとしてくる俺へのささ
やかな抵抗なのだろう。ならば、その抵抗の芽をいち早く摘んでやろうじゃないか。
「これは失礼をしました撫子さん。この通り謝りますから、勉強をしてくださいますね?」
少し嫌味っぽく言ってみる。これで彼女の無駄な抵抗も終わるだろう。
「うぅ……彼方さんって、嫌味な方ですのね」
「そういう性格なもので」
自由奔放な教授の下で勉強をしていたら、嫌でもこんな性格になってしまうさ。ただ愚
直に純粋なままでは、あの人の所で勉強なんて出来ない。
あの人はすぐ俺をからかって楽しもうとするからな。正直、今回のこの展開も教授に半
ば嵌められてきたようなものだしな。
「はぁ……勉強なんて嫌いです……」
「そう落ち込むな。別にスパルタ式に勉強を叩き込んでいくわけじゃないから」
基本的な部分は叩き込むが、それ以外の応用の部分では、ゆっくりと時間をかけ丁寧に
教えていくさ。
「変な不安を抱かず、一つ一つのことを理解していけばいい」
俺がどこまで出来るのかは分からないが、とりあえず出来るところまでやってみよう。
「それに俺だって鬼じゃないから、きちんと理解していけば何かご褒美を用意してもいいぞ?」
「ご褒美ですか……?」
「ああ。まぁ、俺に出来るものに限定させてもらうけどな」
相手のやる気を引き出す方法として一番簡単なのは、褒美だろう。これがあれば、大抵
の奴はやる気を出してくれる。やる気を出して集中力が上がれば、それだけ効率がよくなるからな。
「彼方さん! それ嘘ではありませんよね!?」
「お、おお……」
な、何だ!? 物凄くくいついてきたぞ。よほど何か褒美をもらえるっていうのが嬉しいのか?
「その言葉に何も嘘、偽りはございませんね?」
「ああ。だが、言っておくが俺に出来る範囲でだぞ」
もっとも、出来ないことをしろと言われても不可能なんだがな。
「だ、大丈夫です。ご、ご褒美にただわたくしにキスをしていただければいいので……」
「は、はぁ――っ!?」
今コイツは何て言いやがった!? ご褒美にキスをしろとか言わなかったか!?
「おい、撫子……?」
「勉強を頑張ったご褒美にキスをして欲しいです」
「さ、さすがにキスをするのは……」