生徒はお嬢様!?-4
『娘に手を出すのは構わないが、それ相応の覚悟はしておいてくれよ?』
この言葉が脳裏を横切り、理性という名のブレーキをかける。
「いいからさっさと服を着らんかバカ」
「あた――っ!?」
ギリギリのところで踏ん張り、彼女の頭にチョップをかます。
「な、何をするのですか!?」
頭を押さえ、涙目になりがら俺に抗議をしてくる。
「それはこっちの台詞だ。バカなことをしてないで、さっさと服を着てくれ。こんな状態
だと何も出来ないだろ」
そんな扇情的な格好のままでは、とても勉強を教えるなんて出来ない。せめて普通の服
に着替えてくれないと、まともに顔を見ることすら出来ないじゃないか。
「あなた様はこの格好が嫌いですか?」
「いや、嫌いとか嫌いじゃないとか以前の問題だろ。見知らぬ男の前でそんな格好をする
のはあまりにも無防備すぎる」
あまりに無防備すぎると何処か質の悪い男に犯されかねんぞ。
「あら、わたくしはあなた様のことを知ってしますよ。ねぇ……彼方さん♪」
「な――っ!?」
何でコイツが俺の名前を知っているんだ? まだ互いに名乗りをあげていないというのに。
「藤原彼方さん。二十二歳、男性。今は一人暮らしをしている。しかも大学でも上位に位
置するくらい頭がいい。まぁ、他にも色々と知っていますがとりあえずこれぐらいにして
おきましょうか」
ペラペラと俺のデータを喋る彼女。いくらなんでも俺のデータを事細かに知りすぎじゃ――
いや、相手は九条家だ。それくらいの下調べは余裕で出来るのかもしれない。それに教授
と当主のオッサンは顔見知りで仲もいいのなら、不可能でもないか。
あまりいい気分ではないがな。
「なるほど。そっちは俺のことをよく知っているみたいだけど、俺はそっちのことをよく
知らないんだよね」
唯一理解できたことは、コイツはとんでもないアホであるということくらいか。
一歩間違えばただの痴女である。いや、もうすでに痴女か?
「あぁ、そうでしたのね。わたくしは九条撫子。以後、撫子と呼んでくださいな。年は十六、
スリーサイズは上から――」
「そこら辺の説明はいいや。つーか名前だけでよかったんだけど」
現状は名前くらいでいいだろう。お互いまだ出会ったばかりなんだ。そこまで深く知る
必要はない。もっとも俺の方は存分に知られているけどな。
「あら、残念ですわ。喜んでもらえると思いましたのに」
「俺は服を着てくれたら最高に嬉しいかな」
あぁ、お前が今すぐに服を着てくれたら、小躍りしたくなるくらいに嬉しいぞ。
「彼方さんがそこまで言うのなら、大人しく服を着ましょう。このままでは風邪も引いて
しまいますしね」
「そうだな。部屋の中とはいえ、そんな格好で長いこと居れば、風邪を引く可能性があるな」
イソイソと服を着ていく撫子。これでようやく彼女の顔をまともに見ることが出来る。
ほんと、何でいきなりこんなに気を使わないといけないんだよ。
「こほん。着替え終わりましたわ」
わざわざ俺の前でクルリと回転して、全身を見せ付けてくる。撫子が着ている服は、い
かにもお嬢様風というか、撫子らしい服というか……まぁなんだ、似合っているんじゃないか。
「あの、彼方さん……?」
「何だ?」
「えっと、感想なんかを述べていただけると嬉しいのですけれど……」
ご飯をねだる子犬のように瞳を潤ませながら、俺を見上げてくる。