迷いU-1
ひとり王宮で留守を預かっていた大和は、戻ってきた葵や神官たちの姿をみて駆けてきた。
「おかえり、早かったな」
「大和・・・ただいま」
力なくこたえた葵は、そのまま玉座のある部屋へ向かって歩きだした。
葵の様子がおかしいことに気が付いた大和は、葵のあとを追いかけようとした。
すると、誰かに肩を抑えられ動きを制される。振り返った先には蒼牙がいた。
「蒼牙・・・一体何があった?」
「今は葵をひとりにしてやってくれないか・・・俺は仙水のところにいたから葵に何があったかはわからない。葵と一緒だったのは九条だったが・・・そこでも何かあったみたいだ」
少し離れた場所にいる仙水と九条を見ると、ふたりは会話することなく別々の場所に腰をおろしている。
「蒼牙、わかる範囲でいい。
教えてくれないか?」
神妙な面持ちで声を下げた大和は頷いた蒼牙と階段をあがっていった。
玉座の間に足を踏み入れた葵の足元を清らかな水が滞りなく流れている。足をすすめると流水が彼女を受け入れるように、道をあけてゆく。
玉座を前にして葵は腰をおろすこともなく、じっと見つめている。
(・・・たった一人を愛し、愛されること・・・ゼン様の永遠の愛の誓いはきっとそれと同じこと・・・)
(そして・・・神官たちも・・・
誰かを愛し、共に生きたいと願う相手が現れたら・・・?彼らが私を気遣って、その想いに目を瞑ってしまったとしたら・・・)
考えれば考えるほど、自分が許せなくなってくる。彼らを神官に任命してしまい、その自由を奪ってしまった事。
『葵・・・あれこれ考えるより彼らに聞くのがよい。神官たちの幸せが何なのか、それはお前が考えているようなものではないはずだ』
「・・・・」
世界の意志の言葉にも無言の葵は・・・玉座の手前に腰をおろし、膝を抱えて俯いた。
―――――・・・
蒼牙は自分が見た一部始終を大和に話した。曄子という人間の少女が、躍起になって葵を愚弄したことで仙水の逆鱗に触れてしまったこと。
葵と九条のもとに戻ったときには、もうひとり人間の男がいて・・・すでにふたりの様子がおかしかったことなど。
「王だの神官だの・・・やたらとつっかかってくるやつだった」