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翼の記憶
【ファンタジー 恋愛小説】

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迷いT-1

思わずよろけてしまった葵の体を九条が支えた。





「・・・軽々しく王に語るな・・・
たかが人間に葵の何がわかる・・・っ!!」





バサッと衣を脱ぎ捨てた九条は、神官の正装を翻し葵を抱きかかえた。





「命の短い人間よ・・・
お前はお前の人生を謳歌すればよい。
我々は、我々の時間を生きる。所詮相容れぬ存在なのだ」





背を向ける九条の腕の中で、葵が寂しそうに秀悠へと目を向けた。





「九条さん・・・葵さんが誰かのものになるのが怖いんですか?
だからそうやって人と葵さんを遠ざけようとするのですかっ!!」





「・・・黙れ人間」





ギリッと歯を噛みしめた九条の右手に光が集まった。




ギラギラと煌く聖剣は九条の心に反応して禍々しい力を集めていく。





「九条・・・っ、いけません!!」





我に返った葵が九条の右手に触れた。葵の光が九条の禍々しい力を優しく包んでいく。




「・・・・葵」





ぎゅっと葵を抱きしめて口を閉ざした九条。その九条の背に、葵も手をまわして彼を抱きしめた。





すると、遠くから仙水の声がする。





「見つけた・・・葵様」





息を切らして走ってくる仙水の後ろからは蒼牙が追いかけてくる。





「仙水・・・蒼牙も」





九条の腕からおりた葵は、心細げに二人を見つめた。




(仙水も蒼牙も・・・私のせいで・・・彼らの幸せは・・・)




葵の表情から何かを感じた仙水は秀悠へ目を向けた。




「貴方にももう会う事はないと思います。私たちのことは忘れてください」





召喚された時空の魔法陣には先に蒼牙が飛び込んだ。仙水に背を押され、促された葵は・・・秀悠を振り返った。





「秀悠さん、ありがとう・・・私、何もわかっていなかった・・・」




「葵さん・・・私はあなたが・・・・」





見つめ合う二人の視界を遮った九条は葵を抱きかかえ魔法陣へ足を踏み入れた。



そして、最後に仙水が秀悠を一瞥し・・・
彼らが光の奥に消えると魔法陣も静かに消滅した。





秀悠もまた、葵に想いを告げることが出来ず見送るだけとなってしまった。




「葵さん・・・どうか幸せに・・・・」





森の中で秀悠の言葉だけが響き、誰の耳にも届くことはなかった。






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